「男は女にかなわない」2005/06/19 08:33

 太田光の「向田邦子 女と男の情景」2回目は「男は女にかなわない」。 こ の話には実感がこもっている。 太田夫人は確か、爆笑問題をマネージメント する会社の社長だからである。

 『阿修羅のごとく』の第3話「虞美人草」より。 夫(菅原謙次)が浮気をし ている加藤治子の家に、妻がおしかけて来る。 24.5センチの靴を探そうとし たのを、加藤が下駄箱を押さえたりした後、妻はピストルを加藤治子に向け、 発射する。 水が加藤の胸にかかる。 水鉄砲だった。 騒ぎを聞いて、隠れ ていた夫が出て来てしまう。 あとで加藤は「もし本物だったら、私は死んで いた」と言い、別れを通告する。 あの時、男は立ちすくんでいただけなのに、 女は次のことも考えていた。 裁く女、立ちすくむ男。 女は同時にいろいろ な事を考えることが出来る、向田ドラマはワン・シーンにあらゆることを描く、 と太田光は言う。

 『阿修羅のごとく』の第1話「女正月」から。 姉(加藤治子)の浮気現場を 目撃した妹(八千草薫)。 その不倫相手が帰ったあとで、姉妹の会話。 何も 見なかったかのように、それに触れない妹。 逆にそれを難詰する姉。 母が 昔「見ぬ事清し」と口癖に言っていたという思い出話になり、ふと気持がゆる む。 姉は「おなか空いてない」と聞き、「こんなもんでござんすが」と、鰻重 を二つ持ってくる。 男が金を払ったと知り、妹は鰻重を放り出す。 向田邦 子は、人が足を踏み外した瞬間を捕えて、放さない、と太田光は言う。 そう いうところをきちんと捕える所に、向田ドラマのすごみがある、と。

 万事に「男は女にかなわない」のだけれど、太田は向田がその単純な男をか わいいと見ているところに救われ、かつ身につまされる、と言う。