快適充実の大磯散歩2005/08/02 08:44

 湘南、第二の目的地は、大磯だった。 大磯在住の同級生山崎君に、平塚に 絵を見に行くのだけれど、どこか昼飯によいところを教えて、と話をした。 い くつか候補を挙げてくれた中で、ちょうど土用の丑の日の翌日でもあり、鰻の 老舗として名前は聞いていた「国よし」に決め、予約をしてもらって、ご一緒 することにした。 さすが文政年間創業、十七代目とかいう「国よし」、最近あ まりお目にかからない、とろけるような蒲焼が出た。

 大磯には見てみたいものがあった。 松本順の頌徳碑(1995.8.15.「等々力短 信」715号「大磯の恩人」)である。 松本順(良順)は明治初期の医者で、大磯 が海水浴・避寒の適地だと説き、この地が日本最初の海水浴場、別荘地になっ た。 それを忘れるなと、福沢諭吉が書いたものをよく逗留した旅館の主人に 渡して、のちにこの頌徳碑が建てられた。 山崎君が「国よし」で訊いてくれ、 その碑は旧東海道の国道一号線に面した「国よし」から、さざれ石のバス停の 信号を左折して海岸へ出た所にあることがわかった。 歩道橋を渡ったプール の横に、大きなオベリスクの碑があった。 「松本先生 頌徳碑」犬養毅の書 である。   山崎君の案内で、大磯を散歩する。 別荘地のなごりの住宅地だからだろう、 駅舎には夏燕が出入りし、駅前にはタクシー会社しかなく、コンビニも、サラ 金もないのが、いまどき稀有な、珍重したい風景である。 暑い日なのに、さ すがに海辺で、風が涼しい。 道は狭く、お寺が多い。 東海道線で花水川を 渡ったところから始まる、高麗山、湘南平に連なる裏山の緑が自慢のようだ。  五月、駅を降りると風の匂いが違うという。 松本順の墓のある日蓮宗妙大寺 に行く。 まさか、お墓までお参りするとは、思ってもいなかった。 松本順 のことを書いた吉村昭さんの積ン読の本『暁の旅人』(講談社)を読まなければ なるまい。

 その後、島崎藤村が昭和16年に疎開して、2年後に亡くなった家「靜の草屋」 に行った。 ここにいた同年代のボランティアのおじさんがいい人で、当初大 磯の老舗菓子屋「新杵」の家作だったというこの建物の、茶室風の書斎その他 の造作や庭の木について、いろいろと説明してくれた。 藤村は白い花が好き で、名が春樹だから、春の木、椿がこの庭に多いとか。

山崎君のおかげで、充実した大磯散歩が出来た。 湘南の風光をあびて、気 分はまことに快適、少し日に焼けたのだった。