井上ひさし作『もとの黙阿弥』 ― 2005/08/20 08:39
新橋演舞場の井上ひさし作、木村光一演出『もとの黙阿弥』を、16日昼の部で観た。 前にポスターを見て観たいと思っていたら、券をいただいたのだ。 22年前に、井上ひ さし初の大劇場芝居として上演された作品だ。 欧化主義全盛の明治20(1887)年、浅草 七軒町界隈の芝居小屋大和座が舞台、大和座は大劇場新富座にかかる黙阿弥の新作をパ クッて小芝居で上演し、興行停止処分中。 座頭・坂東飛鶴(高畑淳子)と番頭格・坂東 飛太郎(村田雄浩)は、しかたなく大和座をよろず稽古指南所にしている。
河辺男爵家の跡取り隆次(筒井道隆)と政商長崎屋(辻萬長)の一人娘お琴(田畑智子)の、 両者が地位と金を交す縁談が男爵未亡人で隆次の姉の賀津子(池畑慎之介)と長崎屋の間 で進められ、明後日はふたりが鹿鳴館の舞踏会で会うことになっている。 当のふたり は相手の本音を知ろうと、隆次が書生の菊雄(柳家花緑)と、お琴が女中のお繁(横山めぐ み)と、それぞれの考えで主従が入れ替わったから、事は面倒になる。
22年前の初演では、飛鶴を渡辺美佐子、隆次を片岡孝夫(現仁左衛門)、お琴を大竹し のぶ、書生を古今亭志ん朝、女中を水谷良重(現八重子)、隆次の姉賀津子を有馬稲子が 演じたという。 今昔の感、なんかそっちを観たかったという厚みの差だ。 井上さん は役者にあて込みながら脚本を書いたということだし…。
かっぽれの踊り、後輪の小さな自転車、銀座街三丁目岩谷松平の岩谷天狗商会「金天 狗」「銀天狗」の幟を立てた煙草宣伝楽隊、飛鶴が読んでいる時事新報、蜂蜜たっぷりの パンの付焼屋(実ハ国事探偵)、築地ホテル館、秩父困民党事件、上野精養軒出張給仕の コンソメソップ・ビステキ、病院はあすこが一番・順天堂病院などがちりばめられてい る。 高畑淳子という女優さん、達者なものだ。 池畑慎之介、さすがに存在感があり、 劇中劇の精養軒での母親役のコミカルな演技も光った。 だが、最近の小劇場での井上 芝居の魅力にとりつかれているので、大劇場のうしろの方から観た今回の『もとの黙阿 弥』、今一つ芝居の中に入り込めない感じが否めなかった。
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