「広島・昭和20年8月6日」2005/09/01 09:39

 8月29日TBSの、テレビ放送50周年ドラマ特別企画「広島・昭和20年8 月6日」を見た。 脚本・遊川和彦、演出・福澤克雄。 アメリカがニューメ キシコ州アラモゴードで世界初の原爆実験に成功した7月16日から、8月6 日の原爆投下までの20日間、現在の原爆ドーム、産業奨励館から相生橋を渡 った所にあった矢島旅館の三姉妹と末っ子の弟の物語である。 母は病気で亡 くなり、父は戦死した。 長女矢島志のぶ(28・松たか子)は父母が残した旅館 を切り盛りし、妹と弟の面倒をみている。 次女信子(22・加藤あい)は小学校 の代用教員、戦争に懐疑的でストレートなもの言いをするので姉妹と弟を心配 させる。 三女真希 (18・長澤まさみ)は女学生、被服工場に学徒動員の日々、 神国日本の勝利を信じる軍国少女だ。 末っ子の年明(15・冨浦智嗣)は中学生、 生き物好きで優しい性格、軍事教練の教官にいじめられ、少年航空兵を志願し てしまう。 年明が戦地に向かう日を境に、年明の言う「最強の三姉妹」は押 さえ込んでいた思いを互いに打ち明け、希望や夢を持って生きていこうと決め るのだ。

 長女は代々続く医者の跡取り(国分太一)との恋を心に秘めており、次女は産 業奨励館の職員(玉山鉄二)に結婚を申し込まれている。 三女は、バレリーナ になる夢を持つ。 だが、次女は、強制疎開の建物解体に動員されて疲れた受 持ちの小学生達を一日海岸で「自由に」遊ばせて、軍に連行される問題を起す。  三女は動員先の工場で「朝鮮」と呼ばれ教官にいじめられる友達(澤田あき)を かばって、一緒に逃げ出す。

ドラマ「広島」を見て2005/09/02 08:33

ごく普通の夢や希望を持った若い人達、何の罪もない市井の庶民達の日常生 活が、「広島・昭和20年8月6日」午前8時15分、一瞬の閃光によって暗転 する。 ごく普通の生活、ささやかな幸福を、戦争や原爆の悲劇を対比するこ とが、ドラマの主眼だったのだろうが、その明快な訴えが、いろいろなエピソ ードを盛り込みすぎたために、少し散漫になったように感じた。

ドラマは、なぜ、この日、広島だったのかも説明する。 アメリカは、戦争 が終ったあとで一番大きな影響力を持つために、ソ連が参戦してその力添えに よってではなく、日本を降伏に追い込みたかった。 7月16日に出来たばかり の原子爆弾の威力を実際に試してみたかった。 広島は軍都なのに、その前し ばらく空襲を受けておらず、市民は不思議がっていたが、それも後日原爆の効 果を確認するためだった。 広島に捕虜収容所がなくて、英米人がいなかった こともあった、という。 投下当日、目標は小倉、広島、長崎のいずれかに絞 られており、天候の都合で、広島が選ばれた。

 三女と友達が逃げ出して疾走、市電に乗ったり、中国人街(が広島にあったの を知らなかった)に逃げ込んだりするのだが、そのシーンは中国でロケーション をしたらしい。 冒頭のいったん広島に集められ、戦地へ送られる兵隊たちが 市街地を行進し、学校から帰宅する末っ子が市電に轢かれそうになるシーンも、 中国ロケのようだ。 エキストラが、日本人離れしていた。 中国へ行くと、 古い日本に帰ったような気がするとは聞くのだけれど…。 中国人のエキスト ラは、どういう思いで、日本の軍人になったり、日の丸を振ったりしたのだろ うか。 ただアルバイト代のためか。 「ヒロシマ=反戦」というテーマを説 明されて、撮影に参加したのだろうか。

三太楼の「動物園の虎」2005/09/03 07:13

8月31日は、第446回「落語研究会」。

  「動物園の虎」     柳家 三太楼

「棒鱈(ぼうだら)」   橘家 圓太郎

「九州吹戻し」     五街道 雲助

                仲入

「喜撰小僧」      柳亭 市馬

「木乃伊取り」     柳家 さん喬

 東京メトロ半蔵門の駅から国立劇場に行く道が、いつになく賑わっていた。  でも、風体は歌舞伎を観る人たちではなさそうだ。 小劇場の「落語研究会」 と同じ時間、大劇場が談志一門会だったのだ。 袴を穿いて出てきた三太楼、 落語をやるには大劇場は大きすぎる、どのくらいの大きさがいいかと言えば、 これくらい。 今頃、向うは談志一門の前座が上がっているのだろうが、こち らは真打、それも全員落語協会、ウチが自民党です、派閥はありますが…、と。

 「動物園の虎」、仕事をクビになった男、頭と身体を使わず、10時始りの4 時しまい、一日ぶらぶらしていて、月給100万円という仕事をさがしている。  紹介されたのが三宅坂珍獣動物園、ブラック・ライオンの毛皮をかぶる仕事。  ライオンは猫族だからと、進む方向の反対側の肩から下げる歩き方を教わる(真 打でないと出来ない芸の由)。 腹が空いていて、餡パンを持っていた子供の客 に、「餡パンくれ」とささやいて、立ち上がって受け取り、手で食べたりする。  隣の檻には、凶暴なホワイト・タイガー、こちらに向かって突進して来る。 司 会者は「では、あいだの鉄柵を取り払います」と、約束にないことを言う。 「ジ ャジャジャジャーン」と「運命」の曲が流れて…。

圓太郎の「棒鱈」、雲助の「九州吹戻し」2005/09/04 07:52

圓太郎の「棒鱈(ぼうだら)」。 「故障を入れる」という言葉を、説明してお かないと出来ない噺。 『広辞苑』によれば、「さしさわり、さしつかえがある と申し立てること。異議。」 優勝に「故障が入った」高校野球で、一番強いの は、明徳義塾。 選手がタバコを吸っていても、甲子園に出てくるのだから、 よっぽど強い。

品川に近い料理屋で寅さんと連れの江戸っ子が二人、テェーの塩焼、芋蛸の 煮たので、飲んでいる。 かなり出来上がっている連れは、芸者を呼びてえ、 年増がいい、年増ったって介護認定受けてんのはダメだという。 隣座敷は薩 摩のイモ侍、「アカベロベロの醤油づけ」「エボエボボウズのスッパヅケ」を注 文している。 まぐろの刺身と蛸の酢のものだ。 侍は芸妓を相手に「たぬき ゃの腹づつみがスッポンポン」、『十二ヶ月』「ニガチは初午テンテコテン」など とお国なまり丸出しの珍妙な歌を歌う。 江戸っ子はおかしくてたまらず、一々 口真似をする。 小用に立った連れが、隣座敷を覗こうとして、あやまって障 子を蹴倒してしまい、喧嘩になる。 仲裁に入った板前が、胡椒の棒を持った ままだったから、……。

 雲助の「九州吹戻し」もそうだが、最近の「落語研究会」、珍しい噺が多い。  雲助は、あまりやらないのは、時代が合わないからだろうが、二時間を一時(い っとき)と数えた昔に戻って、旅の気分を、と言う。 元若旦那のなれの果て、 柳橋の幇間キタリキノスケ、ふらり旅に出る。 肥後の熊本に着いた頃には一 文無しになっていて、江戸屋という旅籠にころがりこむと、主人が江戸湯島同 朋町の大和屋だった。 その旅籠で板場の手伝いから始めていろいろ、幇間の 真似事までやって、まる三年辛抱する。 主に預けておいたご祝儀が、自分の 見込みの二十七、八両より多い九十四両三分と聞いて、とたんに江戸に帰りた くなり、もう寝てもいられなくなる。 主が足してくれて百両、これも主が廻 してくれた奉加帳の二十七、八両を路用と土産に、出発する。 まだ夜が明け ない内に着いた浜辺で、明かりのついていたのが西海の船乗りの家だった。 千 五百石の便船で一路江戸まで二百八十里と聞き、船旅にする。 しかし玄界灘 で大嵐に遭い、二日二晩荒れに荒れ、吹かれ吹かれて薩摩の桜島に打ち上げら れた。 楽をしようとして、百二十里、吹き戻されたという勘定。

市馬の「喜撰小僧」さん喬の「木乃伊取り」2005/09/05 08:27

 柳亭市馬の「喜撰小僧」もあまりやらない噺だが、骨格はよくあるやつで、 大店の旦那がお妾さんを囲っているらしいと気がついたおかみさんが小僧の定 吉にあとをつけさせる。 お妾さんに利発な小僧さんだと、一円の小遣いとあ んころ餅のお土産までもらい、旦那には山田さんのお宅で碁を打って泊まりに なると言えといいつかる。 お土産のあんころ餅を、番頭が先ず食べ、なめな いで下さいといわれて、なめるというのはこうやるのだとベロベロやるところ が、可笑しい。 市馬はだいぶ腕を上げ、特にこの手の噺をやると、調子がよ くて楽しい。 おかみさんの肩を叩かされた定吉が、ポロッとしゃべって、「私 を茶にしたね」「今やりましたのが喜撰でございます」という落ち。 

 柳家さん喬の「木乃伊取り」、集金を持ったまま行方不明になった若旦那、吉 原の角海老にいることがわかった。 迎えに行った番頭の喜十郎は五日帰らず、 おばあさんがそれなら頭(かしら)の佐平がいいという。 呼ばれた頭、蔵のこ とか、長屋の根じめの用かと、決めてかかって、なかなか若旦那の話にならな い。 でも「くさった半纏」をもらっているからと口をすべらし、刺し子に着 がえて出かけるが、途中で会った幇間の一八と、角海老で再び会ったからたま らない、ドガチャカとなり七日帰ってこない。 勘当だといきまく旦那におば あさん、あなたも吉原には行かなかったけれど、家に来た女中にはみんな手を つけて…、と言う。 堅物で腕力も強い、まんま炊きの清蔵の出番となる。 そ の堅物が酒と女に、じょじょに崩れていく面白さ。 この日のさん喬、一皮む けたか、例のちょっと気取った嫌味がぬけて、とてもよかった。

 帰りがけ、友達に「何で木乃伊と書くの」と訊かれた。 帰って調べ、ミイ ラはポルトガル語のmirra、「木乃伊」は英語のmummyの漢訳語と判った。  友達に知らせると「英語の「カアチャン!」(このスペルもある)と「ミイラ」 が同じ綴り、同じ発音とはこの歳になって初めて知りました」という返事が来 た。