農民と都市住民では戸籍が違う2006/08/09 06:33

 杉本信行さんの『大地の咆哮』を読むと、中国について、知らないことばか りだったことに気づく。  中国は、壮大なる役人天国だという。 北京の中央政府を頂点に、省、県、 市、郷鎮にまで政府機関が存在し、それぞれが必要以上の役人を抱えている。  そうした行政府という権力機関がある一方で、その裏には各共産党委員会の書 記以下の実力者が存在する。 極端にいうと、通常の国家の二倍の役人を抱え ているようなイメージの、二重権力構造になっている。 行政府と党両者の思 惑により、両者が重なって権力をふるっている部分と、そうでない部分がある のだから始末に負えない、という。

 中国の特殊な戸籍制度についても知らなかった。 現在の戸籍の基本となっ ているのは、1958年に制定された中華人民共和国戸籍登録条例で、外国人、無 国籍者、現役軍人以外、すべての中国公民を対象とする戸籍を、中央から地方 まで、各行政単位の公安機関が管理している。 中国語で「農村戸口」と呼ば れる戸籍を持つ者が農民と定められている。 それに対し、都市に住む者、あ るいは農村に住むが行政に携わる役人は「城鎮戸口」を持つ。 この両者には、 天と地ほどの違いがある。 農民には、生産手段として、国から一定の土地の 使用権が認められている。 ただし、その土地使用権を得ていることで、都市 住民が享受している年金、医療保険、失業保険、最低生活保障などの社会保障 が受けられない。

 農村と都市の移動は昔から厳しく制限されていた。 80年代に入って鄧小平 の改革・開放政策によって、都市部が発展、労働人口が不足すると、それを農 村人口で補完するため、ある程度、移動の自由が緩和された。 その象徴がい わゆる「青色戸籍」で、98年頃、上海、厦門、深圳、広州などの沿岸都市で導 入された。 各都市の新規開発地区に建つ十万元以上の不動産物件を購入する か、同地区に20万米ドル、あるいは百万元以上の投資を行う条件で、その土 地の都市戸籍への編入を認めたのだ。 改革・開放ブームに乗って起業し豊か になった郷鎮企業経営者、いわゆる万元戸たちが「青色戸籍」に殺到し、この 制度は二年ほどで打ち切られてしまった。

 農民と都市との貧富の格差の根本原因に、そもそも両者の間に、上にみたよ うな身分的な差別がある。 しかも社会保障の対象外である農民のほうが、税 金、公共料金、教育費などの負担率が断然高いのである。