膨大な円借款に感謝のない事情2006/08/11 07:02

 杉本信行さんは、中国の現状をたとえて、「共産党一党独裁の旗の下、封建主 義の原野に敷かれた中国的社会主義のレールの上を、弱肉強食の原始資本主義 という列車が、石炭を猛烈に浪費しながら、モクモクと煤煙を撒き散らし、ゼ イゼイいいながら走っているようなものだ」という。 中国の実情をあれこれ 知るにつけ、いろいろと問題はあるにしても、日本という国がつくってきた社 会の制度が、けっこうしっかりしたものであることに、あらためて気づかせら れて、幸せを感じ、感謝の気持になる。

 日本は中国に対し、20数年にわたって膨大なODA供与を行った。 杉本さ んは、中国発展の基礎をつくったのは日本からの円借款であることは、否定で きない事実だという。(85頁) それに対し、中国側から感謝の念の率直な表明 がない。 「対中ODAに物申す」の章にある、円借款で完成した建物の竣工 式の挨拶で円借款の説明のない話や、看板や金属プレートを設置させる攻防に は、苦笑してしまう。 杉本さんは、戦後賠償を放棄した代わりという気持も 底にはあるようだが、共産党の統治の正当性や正統性の必要上、それができな いのだという。 そもそも共産革命を起こし、社会主義により人民の福祉を実 現すること――すなわち軍閥、国民党政府の腐敗堕落した統治から脱却し、抗 日闘争・戦争に勝利し、半植民地状態から脱却し、台湾問題を解決し、祖国の 統一を成し遂げることが、共産党の正当性や正統性を裏付けるものであった。  それなのに貧富の格差が許容できないほど拡大し、その不満が国内に充満して いる。 その失政を隠蔽するために、「抗日闘争・戦争」時代を強調し、国民の ナショナリズムを煽る、反日教育を行わざるを得ないというのだ。