バクテリアから、ヒト誕生までの歴史2007/10/12 07:58

 『いのち愛づる姫 ―ものみな一つの細胞から』には、11世紀、『源氏物語』 とほぼ同じ時期に書かれたとされている『堤中納言物語』の「蟲愛づる姫君」 が登場する。 毛虫を箱に入れて可愛がり、その毛虫が美しい蝶になるのだか ら、時間をかけて見ていると、はかない蝶よりも、生きる本地(本質)は毛虫 のほうにある、と言う姫君だ。 中村桂子さんは、この「蟲愛づる姫君」に、 科学の精神、自然志向を見、この姫君には、生きものの中にある歴史を読み取 り、生きていることを全体として、過程として捉まえていくことによって、「生 きている」ことを知る「生命誌」の原点があるというのだ。

ミュージカルでは、バクテリアが江戸時代の飛脚、ミドリムシは京女、ボル ボックスは若衆、カイメンは町娘の姿で現れる。 中村桂子さんによれば、バ クテリアは、この世に一個の細胞が生まれなければ何も始まらない、原始細胞 に最も近い姿の、その証拠のような存在だという。 次に生まれたのが、一個 の細胞ながら、複雑なシステムを持つ真核細胞。 やや大きめの細胞のなかに、 酸素呼吸でエネルギーを効率よく生産する細胞が入り込み、ミトコンドリアと いう小器官になって、共生する。 この細胞ができたときに、ヒト誕生までの 可能性が生まれたという。 ミドリムシは、その代表選手。 ボルボックスや カイメンは、真核細胞の能力である多細胞化への道を示す生物だという。

 堀文子さんが、顕微鏡を覗いて、面白がって絵にしたミドリムシやボルボッ クスは、そんなたいへんな存在だったのだ。