「肌寒」の本来は…2007/10/15 07:50

 「肌寒」の季題解説を担当してくださった英主宰によると、「肌寒」は和歌で は「肌寒し」として、『万葉集』にも登場するそうだ。 肌に冷たさを感じる様 子で、季節というよりも孤独をあらわしていた。 「蒸し衾なごやが下に臥せ れども妹とし寝ねば肌し寒しも」(巻四・524・527・藤原麻呂)、「旅衣八重着 重ねて寝ぬれどもなほ肌寒し妹にしあらねば」(巻二十・4351・4375・国忍) のように、独り寝の寂しさを表現するのに使われている。

 秋も深まった仲秋以降、夜間はもとより昼間も寒さを感じるようになる。  「寒さ」自体は冬季のものだが、しだいにその寒さが感じられるようになる。  それを季節をあらわす「肌寒」という季題にしたのは、俳諧からのことなのだ そうだ。 「肌寒」は、「秋の風」の「風」と同じような季感を持っている。

 その話を聴いて、私が思い出したのは、「味噌蔵」という落語だ。 しみった れのシワイ屋ケチ兵衛さんの噺。 親戚一同に親戚付き合いを止めるといわれ て、しぶしぶ食の細い嫁さんをもらう。 子供ができるとメシを食うというの で、ケチ兵衛さんはひとりで、布切れにくるまったような、背中に畳の目を感 じる煎餅布団に寝ている。 寒い日がつづき、あまりに寒くて、つい嫁さんの 布団に入る。 その「あったかい」ことを知る。 そして「あったまりのかた まり」である、できるものができる、のだ。 落語は『万葉集』に近いことに なる。