吉田修一さんの『悪人』 ― 2008/03/22 07:40
切り抜きを掻き回していたのは、吉田修一さんの『悪人』について書かれた ものを探していたのだった。 初めての新聞連載だったというこの作品は、第 34回の大佛次郎賞を受けた。 19日に書いたように、連載中は物語にひっぱ られて読んでいたのだが、暗い話で、あまりよい印象を持っていなかった。 ど う読むのか、わからなかったところもある。
井上ひさしさんの大佛次郎賞の明解な選評を読んで、なるほどと思った。 「ケイタイ、車、ラブホテルなどで張り巡らされた欲望の網――これが「いま」 の社会が仕掛けている巨大な罠だが、淋しい人たちが、その孤独さから進んで その網に引っ掛かり、たちまち「悪人」へと堕ちていく。吉田修一氏の『悪人』 は、その網でもがく若者の一部始終を、張りつめた文体と緊密な構成とで描き 出している。どこを切っても、網の中で営まれている人の生の悲しみが滴り落 ちてくるが、この罠の中でよりよく生きるには強い愛しかないという結尾で、 すべては浄化される。構えの大きい、奥行きの深い力作である」
吉田修一さんへのインタビューによると、当初、犯人に恋して逃避行をとも にする佐賀の女性も殺される構想だったそうだ。 大型店が点在する産業道路 沿いの量販店の店員だった女性は、「それまでの生活よりも犯人と逃げる1時 間の方が大切だと気付く。この小説では、大切な人を持たなかった人々がそれ ぞれ、最終的に大切な人を見つけるんです」
井上ひさしさんの読みは、核心を突いていた。 まとまった本でなく、新聞 連載で読む限界もあると思った。
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