諸田玲子著『希以子』の時代 ― 2008/03/24 06:47

諸田玲子さんの『希以子(きいこ)』には、こういう献辞がある。 「貴重な 体験を語り聞かせて下さった羽場敦子さま、そして怒涛の時代を生きたすべて の女性たちへ敬意と感謝をこめて。」 主人公の希以子は、大正3(1914)年5歳 で、東京日暮里の裏通り、路地の廂合(ひさあい)、家と家の間にすっぽりおさ まる小ささで登場する。 数え年だとすると、明治43(1910)年生れだから、私 の父とほとんど同年、大正4年生れの母とも、ほぼ同年代ということになる。
希以子には、髪結の生みの母と口入屋の父、姉、母が多忙で預けられた八百 屋の養父母とそこにも姉美佐緒がいる。 生母が近くの小舞屋(壁の下地を作 る)の職人と駆け落ちして、父や姉と深川木場に越すが、そこで姉が疫痢で死 ぬ。 木場で大正6年(8歳)には暴風雨後の大洪水、大正12年(14歳)に は関東大震災に遭う。 美佐緒は芸者になり、根岸で電機工場を経営する西条 の後妻になる。 西条には市太郎という息子と娘がいる。 人怖じせず愛嬌が あり、きさくで明るい、楽天的な希以子は、複雑な家庭環境と度重なる苦難に も負けずに成長し、大震災の翌年(15歳)、女学校を出て電話の交換手になっ た。 時代は昭和となり、年頃を迎えた希以子は、金融恐慌から次第に戦争へ の道を進む日本とともに、生きていくことになる。 それは、私の父母の青春 の時代でもあった。
最近のコメント