小三治の「うどんや」 ― 2008/04/07 07:11
商売で、これはやさしいというものはない、と小三治は「うどんや」に入っ た。 屑屋は、楽でいい商売だなあ、時がゆっくり過ぎているようでいいなあ、 と思っていた。 大きな声で呼ばれた時は、儲けはない。 お屋敷は近所に気 兼ねして、小さな声で呼ぶから、目で合図して入る。 これがコツ。 小さな 声で「屑屋さん」と呼ばれた。 長屋のハバカリからだ。 泥棒が金を抜いた 財布でも出すのかと、寄っていくと、「紙があったら一枚」 二八蕎麦も、小さ な声で呼ばれたほうが、儲けがある。 ばくち場や、奥に内緒の店の者の夜食。 売り声も蕎麦が江戸前で、鍋焼きうどんは、そうはいかなかった。 うどんが 広まるのには年月がかかったが、寒い時はうどんのほうがいい。
ここから、婚礼帰りの酔っ払いがうどん屋にからむ話になる。 火にあたっ て、仕立屋の多平と愛嬌者のかみさんの娘、美い坊、十八が今晩婿を取った。 美い坊、きれいな形で出て来た。 どっかで見たことがあると思ったら、箪笥 屋の看板だ。 ちっぽけな茶箪笥みたいなものを祝っただけなのに、「おじさん、 さてこのたびは」って、学問のある人か、綱渡りの口上みたいなことを言う。 この繰り返しを、うどん屋も憶えたところで、水をもらう。 いくら?、ただ で、ただか、もう一杯。 もっとどうぞというのを、小さい時、神田川に落っ こって、しこたま水を飲み、どっと患いついた、と、からむ。 結局、親方、 うどん差し上げたいんですが、に「おれ、江戸っ子だよ」
売り声を上げると、子供が寝たばかりだと怒られた、うどん屋、いよいよ小 さな声で呼ばれるのだが…。
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