福沢先生の英国体験2008/05/27 07:10

 「英国に学ぶ」講演会、つぎは山内慶太看護医療学部教授の「福澤先生の英 国体験」だった。 5月14日の日記「「小泉信三展」の若き実動部隊」で書い たように、山内さんの講演は福澤諭吉協会の土曜セミナーで「福沢諭吉の見た ロンドンの医療」(2002.4.20.と書いたが、3.30.の間違いだった)を聴き、感 心したことがあって、この日も聴きたいと出かけたのだった。 ちょっと手を 抜いて、その時書いた日記を再録する。 なお「福沢諭吉の見たロンドンの医 療」は、『福澤諭吉年鑑29』(2002年・福澤諭吉協会)に掲載されている。

         福沢の見たロンドンの医療<小人閑居日記 2002.4.5.>

3月30日の福沢諭吉協会の土曜セミナーの講師は山内慶太さん、慶應義塾 大学看護医療学部助教授で、精神医学のご専攻、平成12年度の一年間、精神 医療に関する医療経済学研究のためロンドンに滞在した。 その間に、文久2 (1862)年遣欧使節の一員として、福沢諭吉がロンドンで見学した病院、 福祉施設を中心に、遣欧使節に関する資料を探索してきた、その報告である。

福沢諭吉、箕作秋坪(緒方洪庵門下、外国方勤務、のち東京博物館兼図書館 長)、松木弘安(のちの寺島宗則外務大臣)、川崎道民(佐賀藩医師)らは、一 般病院だけでなく、精神病院、聾唖者や盲人のための福祉施設も見学している。  福沢が『西航記』で「養癩院(ようてんいん)」と記した精神病院は、ベツレム 病院であることが判明し、そこで数々の資料が見付かった。 訪問者署名簿に 一行の署名があり、福沢が「ドクトルジョンソン」「余、殊に此人と善し」と書 いていた案内の医師のフルネームが、Edmund Charles Johnson とわかり、医 者人名録や王立外科学会の略歴などから、医師であるが、盲人の教育、福祉に 生涯を捧げた人であることも、確認された。

 一行はベツレム病院で改良されたばかりの精神医療の現場を見、さらに英国 で最初の精神疾患によって罪を犯した患者、すなわち触法患者の専門病棟も見 学している。(日本ではようやく最近になって論議されている問題) その時の 福沢の記録に出てくる3人の患者について、山内さんは当時の患者リストやカ ルテを調べて、人物の特定に成功している。 そのうち2人は、英国の精神医 学史上有名な患者であった。

 山内さんは、福沢が見学したもろもろを「わが日本国へ実行せんとする野心」 を持ったと後に『福澤全集緒言』に記していることにふれ、遣欧使節の見聞が 日本の近代医療にどんな影響を及ぼしたかは、今後研究を深めていかなければ ならないと語った。