柳亭市馬の「粗忽の使者」2008/06/02 07:04

 首をひょこひょこ上下させて、柳亭市馬は出て来た。 大相撲を見物してい るのを時々見かける。 肉まんのような丸い顔の、師匠小さんの話をする。 ま ず、しゃべらない人で、こちらからおしゃべりをすると、まずしくじる。 そ そっかしい人だった。 長いこと落語協会の会長をやっていた。 目白に住ん でいて、池袋演芸場は近い。 散歩の途中、どうかすると高座に上がる。 胴 着、作務衣のような恰好のまま、出た。 小噺を二つ、三つやる。 オマケだ から、お客さんには大変喜ばれる。 でも、新宿の末広に出番があるのに、池 袋に出るということも、よくありました。

 杉平柾目正(まさめのしょう)という大名が家来で粗忽者の治部田治部右衛 門を、親類の赤井御門守と謀って、戯れの使者に出す。 治部右衛門は、重役・ 田中三太夫と会い、その名乗りを受けて、「それがしは田中三太夫」と言いかけ て「田中三太夫ではござらん、斉藤十郎太、いや斉藤十郎太を甥に持つ…」と いう人物だ。 お使者の口上を忘れて、お詫びに切腹するといい出し、子供の 頃から、ケツをつねってもらうと、忘れたことを思い出すからと、田中三太夫 にケツをつねってもらうという例の大騒ぎ。 市馬は、その一部始終を覗いて いたトメッコという名の職人が、仲間に報告する形で演る。 柔の指南役でも ある三人力の田中三太夫が、じゅんさいみたいな青筋を立ててもダメで、「指先 に力量のある御仁」というのを探す。 トメッコは俺が行くと、くぎ抜き、エ ンマを隠し持って参戦。 火急の場合だ、当家の若侍ということにして、名を 中田留太夫、「おい、おじさん、早くケツ出しな。きたねえケツだな。毛むくじ ゃらで、こおろぎでも飼おうてんじゃねえだろうな。どうだ少しはこたえるか」 「冷たいお手で。もう少々、手荒く」

最近進境著しい市馬、楽しそうに演じて、三之助に続いてヒットでつなぎ、 走者一・二塁のチャンスを作った。