福沢文章のすごみ、比喩の面白さ2008/06/09 06:31

 福沢を読み解く補助線として、松浦寿輝さんはドイツの哲学者ベンヤミン (1892-1940)の「アレゴリー」(寓意・寓喩)の概念を持ってくる。 ベンヤ ミンは論文『ドイツ悲劇の根源』で、「アレゴリー」と象徴(シンボル)を対比 し、近代的な美学が象徴のイメージの力を評価しているのを非難し、「アレゴリ ー」が文化的価値を持っているとした。 象徴は、平和と白鳩のように、空を 自由に飛ぶイメージから、有機的つながりがある。 「アレゴリー」は、似た 形象におきかえ、意味の体系で定まっている約束事。 例えば、正義の女神と 天秤ばかりのように。 牢固たるシステムで、揺るがない。 (『広辞苑』では、 寓意・寓喩…他の物事にかこつけて、それとなくある意味をほのめかすこと)

 松浦さんは、福沢文章のすごみを、この「アレゴリー」を分析ツールとして 読み解く。 比喩のすごさとうまさ、イメージの喚起、それは生産的な「アレ ゴリー」の実践だったのではないか、という。 『学問のすゝめ』から例を引 いて説明する。

 (1)単純な比喩

 第三編・第二条「独立の気力なき者は必ず人に依頼す」のところで、目上の 人に「其柔順なる事家に飼いたる痩犬の如し」(岩波文庫35頁)(「痩犬」は、 文人としての福沢の才能)

 第十三編「怨望の人間に害あるを論ず」、「元来人の性情に於て働に自由を得 ざれば其勢必ず他を怨望せざるを得ず、因果応報の明なるは、麦を蒔て麦の生 ずるが如し」(132頁)

 第十五編「事物を疑て取捨を断ずる事」、「異説争論の際に事物の真理を求る は、猶逆風に向て舟を行るが如し。其舟路を右にし又これを左にし、浪に激し 風に逆ひ、数十百里の海を経過するも、其直達の路を計れば進むこと僅に三五 里に過ぎず」「人事の進歩して真理に達するの路は、唯異説争論の際にまぎるの 一法あるのみ」(151頁)