寂聴さんの語る『源氏物語』の男たち2008/08/18 07:13

 4月と5月のNHK「知るを楽しむ」“この人この世界”は、瀬戸内寂聴さん の「源氏物語の男君たち」だった。 三回目の「無二の従者・惟光(これみつ)」 を偶然見て、4月30日に「「コレミツ」について」を書き、5月1日に「第四 帖「夕顔の巻」入門」を書いた。 寂聴さんの「男君たち」という切り口と、 そこから『源氏物語』の全体を展望する話が面白く、第三回以降、第八回の「薫 と匂宮の恋の争い ―浮舟出家―」まで見たのだった。

 第四回は「朱雀帝の悲劇 ―「負け犬」の苦悩―」。 朱雀は光源氏の腹違い の兄だが、光源氏と比べるとすべてに劣る、なさけない人(寂聴さんはそんな ところが好きだと言った)だが、朱雀は源氏が好きなのだった。 桐壺帝は勢 力争いを避けるため、23歳の朱雀を春宮(とうぐう=東宮)に指名、20歳の 弟は臣下に降され源の姓を賜って「光源氏」となった。 第8帖「花宴(はな のえん)」、花見でほろ酔い気分の光源氏は、戸が開いていた御殿に忍び込み、 見知らぬ女と一夜を過す。 彼女は敵対する右大臣の六番目の娘で、春宮妃に なることが決まっていた朧月夜(辺りが明るくなるように美しく、セクシー) だった。 源氏はそれがわかってからも、つき進む。 書かれていないが、春 宮になれなかった思いがなかったとはいえないと、寂聴さんは言う。 すぐに は手に入らないものでないと、心が沸き立たない性格の悲劇だ、と。

 朧月夜は源氏に会い続け、春宮妃の予定は消える。 即位して朱雀帝となっ た兄は、朧月夜を尚侍(ないしのかみ)という女官として迎え、寵愛する(第 10帖「賢木(さかき)」)。 源氏に密会していることも知っていて、許す。 寂 聴さんは、女はその優しさを有難いとは思わない、自分を裏切る油断のない男 に惹かれるのだ、と語った。 朧月夜の尚侍は光源氏との夜毎の忍び合いを父 の右大臣に目撃され、右大臣派は光源氏が春宮の位を狙っていると事件をフレ ーム・アップする。 やむを得ず源氏への流罪を命ずるのは朱雀帝の役目だが、 源氏は自ら位を返上し、都を離れて、須磨へ。 光源氏、生涯一の挫折だったが、大人へと成長していく。

 『源氏物語』が、権力闘争の物語とは、知らなかった。