「となりのトトロ」の「傘」と「力足」2008/11/05 07:28

 ここで松浦寿輝さんが、映して見せてくれたのが、宮崎駿監督の『となりの トトロ』の、傘、柄傘、簑笠、力足に関わる、二つのシーンだった。 宮崎駿 監督が折口信夫を読んでいるかどうかはわからないとしながらも、監督が日本 古来の伝承文化に強い興味を持っていることは、そのいくつかの作品に表れて いるという。

 最初のシーンは、雨の夜、稲荷前というバス停で、傘を差しメイをおぶった サツキが、お父さんの帰りを待っている。 そこへ、トトロが現れる。 頭に 乗せている葉っぱを、松浦さんは「簑笠」だという。 サツキは、トトロに父 の傘を貸し、それを差したトトロは、傘にしずくの垂れる音に、喜ぶ。 トト ロが、巨体でドーーンと地を踏みしめる(「力足」か)と、頭の上の樹木から、 たくさんの水滴が落ちてきて、傘に当り、またトトロは喜び、笑い、吠える。  そこへ、猫バスがやって来る。

 次のシーンは、傘を貸したお礼にトトロにもらった木の実を植えた場所へ、 夜、傘を差したトトロがやって来たことに、寝ていたサツキが気づく。 トト ロと、小、極小のトトロが、木の実を植えたまわりを、跳ねて回る。 これが 「力足」だろうか。 起き出したサツキとメイと一緒に、トトロたちが傘を上げ下げして、祈りの動作をくりかえすと、木の実は芽を出し、どんどんと伸び て、たちまち大木になっていく。

 『となりのトトロ』で、宮崎駿監督は、近代化、都市化の進む中に、呑み込 まれて行ってしまう、郊外の自然や四季の美しさを描いた。 トトロは、土地 の精霊で、一種の「まれびと」だと、松浦寿輝さんは語った。 その話は、宮 崎駿監督の映像の力もあって、よくわかり、非常に説得的だった。