志ん丸の「きゃいのう」2008/11/23 07:05

 成長株のビリケン頭、志ん太改メ 古今亭志ん丸(まる)で、真打昇進だそう だ。 のっけから、無理な錆び声と、噺家っぽい語り口が、気になった。 真 打昇進の気負いだろう。 普通にやればいいのだ。 すこし話せば、前に出た 志の吉との力量の差は、明白なのだから…。

 「きゃいのう」は、大部屋とか三階とか呼ばれた下っ端の役者の噺である。  腰元になる三階連中には、「衣装の親方」も、「カツラ屋・床山の親方」も、扱 いがぞんざいだ。 ズラが一つ足りなくて、泣き出した役者がいる。 訊けば、 生れた時から役者になりたくて、五年前に家出、団十郎の弟子になった団子兵 衛。 勘当されていたのに、三年前、舞台に出ると手紙を出したら、遠い田舎 の父母が観に来てくれた。 その時は、山崎街道のイノシシ。 去年も来てく れたのに、熊谷次郎直実の、乗っている馬の脚だった。 今年は、腰元、いよ いよ二本の足で立てるようになった。 台詞だってある。 父母が客席で待っ ている。

 それならカツラを都合してやろうと、床山の親方は煙草を吸いながら、奴(や っこ)にカツラを探させる。 残っているカツラは、石川五右衛門の百日鬘と 禿げズラだけ。 そうだ、去年、相撲取が女形をやった時の図抜け大一番のカ ツラがあった。 団子兵衛にかぶせると、鼻の下まで入って、前が見えない。  ズラの中に、かうものを探して、そこらにあった南京豆のカラをつめて、かぶ せる。

 舞台に出た腰元三人、そこらを掃いているところに、乞食が来て、腰元1「エ エむさくるしい」、腰元2「トットと外へ出て行」、腰元3の団子兵衛「きゃい のう」となる、予定であった。 床山の親方の吸っていた煙草の灰が、南京豆 のカラの中に落ちていたから、たまらない。 タボから煙の出始めた団子兵衛 の、台詞がなかなか出て来ない。 三回目のやり直し。 乞食もそこらをウロ ウロ。 頭から煙が出て来て「トットと外へ出て行」「ン、あっついのう」

 名手がやれば、爆笑となるはずの噺だ。 そこまではいかなかった志ん丸、 自身のいう真打の次の「死ぬ」という位まで、まだ十分時間はある。