小三治と扇橋2009/02/27 06:59

 平成11(1999)年に桂枝雀が自殺したのは、まったく意外だった。 爆笑王 の高座からは、それほど突き詰めて演じているとは、想像がつかなかった。

 小三治も、突き詰めるタイプのようである。 師匠の五代目小さんは、何に も教えずに、ただ「お前の噺は面白くねえな」と言った。 必死に技術を磨い てきたのに、師匠からの全否定。 以来、寝ても覚めても、「面白いとは何か」 を考える日々。 これで良い訳はない、と思いつつ、ずっと来ている、という。  小さんは「噺は心だ」、「そいつ(登場人物)の心持になれ」と言うだけだった。

 誰が書いたのか、プログラムの出演者略歴に「趣味は、オーディオ、クラシ ック音楽、オートバイ、スキー、カメラ、ゴルフ、俳句、他にハチミツ、塩の 研究。/真面目に「生きること」を考え続け、その結果として遊びを含め手が けたことには徹底して取り組む。一言でいえば落語の世界観をてらいや狙いを 持たずに骨肉としている噺家。」 スキーは、映画にパラレルで滑っている場面 が出てくる。

 映画に前座時代からの仲間の入船亭扇橋が出てくる。 若い時二人で、小さ んの家の二階の窓ガラスを拭いている写真がある。 今でも二人で温泉に行っ たりする。 小三治が新しい試みをする時には、「小三治のことが心配で」と、 扇橋が楽屋に来ていて、出の前にハグしたりする。 ゆったりとしていて、ひ との話を聞いているのか、聞いていないのかわからない、扇橋のことを見なが ら、小三治が言う。 「これでいいんだ、と思う。こういう人を見ていると、 心の休みになる。こういう人がいるのは最高のプレゼントだ。これからもよろ しく」

 扇橋は最初、桂三木助に入門し、三木助が死んで小さんの門下になった。 だ から小三治より八つ年上だが、小さんの所には後から入った。 扇橋には、小 三治のためにも、長生きをしてもらいたいものだ。