自転車旅行と教会堂2009/07/14 05:27

 『愛を読むひと』で、マイケルとハンナが一泊の自転車旅行に出かける。 二 人の恋の絶頂期といってもよいだろう。 途中で寄った戸外のカフェ・レスト ランで、ハンナはメニューを受け取るが、一瞥してマイケルに料理を注文させ る。 勘定を払い、美味しかったというマイケルに、店の女は「お母さまも満 足したかしら?」と聞く。 この映画の「サビ」の部分の一つである。 この 時1958(昭和33)年、原作者ベルンハルト・シュリンクの分身と思われる少 年マイケルは1944(昭和19)年生れの15歳、ハンナは1923(大正12)年か その前年生れ(最後に墓碑銘が出たのだが…)の36歳、21歳で産んでいれば、 当然「母」と言われてもおかしくない。 少年とほぼ同年代の私には、母親が 1923(大正12)年生れというのは想像がつく。

 その自転車旅行で、二人は教会堂に寄る。 たしか流れてきた讃美歌に誘わ れて、ハンナが中に入り、礼拝堂の席に座る。 宣伝文句に「最後の場面に涙」 というのがあったのだが、私は泣かなかった。 最近は、とみに涙腺が弛んで、 この映画の前にやったリチャード・ギアの『HACHI』の予告編でさえ、あやし くなったのに…。 その最後というのは、1995(平成7)年51歳のマイケル が娘を、サプライズでその教会堂に連れて行き、ハンナの墓を見せる場面だ。  初めて、ハンナとのことを、娘に語ったのであろう。

 教会堂は、ハンナの記憶の中で、恐ろしく強烈な印象を持っていたはずだ。  おそらく、同じ場所の教会堂ではないのだろうが…(ドイツに土地勘がなく、 映画では、分からなかった)。 裁判の対象となった犯罪事実は、教会堂で発 生していた。 ハンナたちが看守として輸送中のユダヤ人たちを、鍵をかけて 一晩泊めた教会堂が、空爆を受け、炎上、ほとんどの人が死んだのだった。