三三の「ろくろ首」2009/07/19 05:26

 三三は、ひょいひょいと出て来て、早口で始める。 ちょっと顔色が悪い。  師匠が思い詰める性質(たち)だからと、ちょっと心配になる。 「ろくろ首」 は、三三の師である小三治の師匠、五代目小さんの十八番だった。 つい、比 べてしまう。

 25になる馬鹿の松公が、伯父さんのところに相談に来る。 33の兄貴が、 三年前に嫁さんをもらい、子が出来た。 子どもも可愛いが、三人で飯を食っ ていて、お嫁さんが兄貴のことを「あなたや」と言うのがいいと、もじもじす る。 何だ、はっきり言えと言わると、目をすえて「アタイも、おかみさんが、 もらいたい」と叫ぶ。 「ばあさん、入歯を拾え」。 伯父さんの知り合いの、 お屋敷のお嬢さんのところへ連れて行ってみようということになる。 お金持 で器量よし、乳母(おんば)さんと女中が二人という暮らし、ただし夜中に首 が伸びるのだけが欠点だ。 松公は、夜中ならいいや、目が覚めないから、と 乗り気だ。 「さようさよう」「ごもっともごもっとも」「なかなか」という挨 拶の練習をし、伯父さんが松公のふんどしに結んだ紐を引っ張って合図するこ とにして、「馬鹿の廃物利用だ」と出かける、という例の噺だ。

 そこで、五代目との比較だが、小さんの松公は可愛らしかった。 いかにも 憎めないという感じだった。 くだんの紐の先につけた毬に、猫がじゃれて、 「さようさよう」「ごもっともごもっとも」「なかなか」を連発するあたりは、 忘れられない。