喬太郎の「布哇の雪」 ― 2009/07/20 05:56
「布哇」という字がお読みになれただろうか。 三三の演った「ろくろ首」 の松公は、一人前の証拠に、天丼なら五人前食えるし、漢字で「ハワイ」って 書ける、と言った。
演出で、非常口の明かりを消し、冷房を切ったのか場内が暑くなってきた。 少しやったところで、いいのかな、トリでこんな噺をやって、と喬太郎。 新 潟の豪雪地帯、上越高田の町に、おじいちゃんの留吉と、こっちの大学(コロ ンビア大学新潟分校)に受かったメソポタミア語専攻の孫娘サトミが住んでい る。 海外からダイレクトメールが来る。 留吉は敵性語だというが、サトミ が読むと、ハワイのジョージ藤川という日系三世からで、おばあさんのチエコ さんが死にかけていて、一目留吉に会いたいと言っているという。 チエコさ んは留吉の幼馴染、チィちゃんトメちゃんという仲で、よく二人で雪かきをし た。 長ずるにしたがって思いが深くなり、将来をかたく誓い合った。 しか しチエコさんは、止めるのも聞かずにハワイへ渡り、戦争で敵国の人になった。 留吉は見合いをして、ばあさんと一緒になって、サトミの親を産んだ。
腕相撲大会のチラシが入った。 部門優勝者はペアでハワイへ。 85歳以上、 ディープ・シニアの部で、永遠のライバル“越後のトビウオ”酒屋の清吉と闘 うことになり、サトミは八百長を頼みにいくのだが、笑止千万、わしが行くと 断わる。 “トビウオ・スペシャル”が決まりそうになり、留吉が「チィちゃ ん、ごめん」と言ったところで、力が抜け、「負けたよ、留吉。 わしの分まで 看取ってやってくれ」。
喬太郎は、これしかないと、手を広げて「ブーン」とハワイへ。 出て来た のは「留吉さんでっか。 わいがジョージ藤川でんねん、めんぼくねえ」とい う間違った学習法で日本語ペラペラの男。 中庭でチエコさんが待っていると いう。 「なつかしいなぁ、チィちゃんや」
場内は暗転し、スポットを浴びた喬太郎。 「あら、トメちゃん、ひさしぶ り」 かつての上越高田と同じように、何かが降ってきた。 (三味線が入っ て)「雪だ」 「いい人生だった」 「わしも、そう遠くないうちに、行くよ。 生まれ変わるなら、必ず世帯を持とう」 「約束する、ありがとう」 確かに ハワイにも、しんみりとした雪が降るのであった。
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