正蔵の「星野屋」2009/10/03 07:02

 「星野屋」という噺、あまりいい噺ではない。 正蔵は、ウソとマコト、男 と女の話、マコトから出たウソもある、と何だかよくわからないことを言う。  星野屋の主人が、妾のお花に、五十両渡して、別れてくれと言う。 何代も続 いた店の暖簾を下ろす、男として面目ないから、今晩死ぬのだ、と。 お花は、 自分も一緒に死ぬと、吾妻橋まで付いて行く。 下には屋根舟がいて、一中節 なぞやっている。 旦那は飛び込んだが、お花は止めて帰って来る。

夜中に、土砂降りの雨の中、お花を星野屋に世話した重吉が来て、旦那は来 なかったか、と聞く。 重吉が寝ていて、変な感じがして目を覚ますと、枕元 にずぶぬれの旦那が座っていた。 このままでは旦那も浮ばれないだろうと、 重吉に言われて、お花は黒髪を切って重吉に渡す。 そこに星野屋が現れる。  あの屋根舟は、星野屋が手配していたのだ。 もし、お花も飛び込んだら、お 花を新しく出す店の女将にするつもりだったのにと。 だが、ほっかぶりの手 拭を取ると、お花の渡した黒髪は、カツラだった。 けれど、旦那の渡した五 十両も偽札だった。 「母さん、たいへんだ、すぐ返しておくれ」と、金を返 すと、一転、本物だという。 くやしがるお花に、母親が「大方そんなことだ ろうと、三枚くすねて置いた」という落ち。

 正蔵が演ると、この何か、陰陰滅滅たる噺が、カラッと明るい感じになる。  三枚ばかりじゃなくて、もっとガバッと、くすねておけばよかったのに、とい う気になる。 それは、それで、一種の人徳というものであろう。