「椎の実」と照葉樹林文化2009/10/16 07:50

 「椎の実」の季題研究は、私の当番だった。 それで井の頭吟行の時に、「椎 の実」を探したり、「すだ椎」の葉が光っている写真を撮って来たりした。 玉 川上水沿いには、団栗(どんぐり)しか落ちていなくて、「椎の実」は結局、近 所の奥沢神社で拾ったのだった。 団栗はカシ、クヌギ、ナラなどの実の俗称である。 椎(シ イ)は、ブナ科シイ属。 ブナ科には、クリ、クヌギ、シイ、コナラ(カシ) などがある。 その実は、殻斗(かくと)というものにくるまれている。 殻 斗は、ブナ科植物の堅果(つまり実)の一部または全部を包む椀形または球形 の構造で、雌花の苞葉が変形したもの。 クリのいが、どんぐりのお椀がこれ にあたる。 「椎の実」を拾うとわかるのだが、「椎の実」の殻斗は、全部を包 んでいて、翌年の秋に熟すると、殻斗が裂けて堅果が露出する。

 「椎の実」は、内部の白く肥厚した子葉(種子)を食べる。 生でも食べら れるが、炒ると香ばしく、ほのかに甘い。 紙袋に入れて電子レンジで加熱す ると簡単に食べられるそうだ。 古代には重要な食料であり、近年まで子供の おやつに用いられた。 博多では放生会の祭りの夜店で、今でも売られている という。 句会でも、食べたことのある方がいて、とくに戦後の食料のない時 期に学童疎開で食べたという話が印象に残ったが、私は東京育ちのせいか、食 べたことがなかった。

 「椎の実」そのものについては、あまり話すことがないので、古代には重要 な食料だったということと、シイが照葉樹林の代表的構成種ということから、 照葉樹林文化の話をした。 そして去年の折口信夫・池田弥三郎記念講演会で 聴いた、文芸評論家の梶木剛さんの「椨(たぶのき)のある風景」を紹介した (その内容は、この日記の2008.11.6.~10.参照)。 水稲耕作を伴う弥生時代 が始まるより以前、関東以西の植生は、タブノキを含むシイ、カシ類、ヤブツ バキなどの常緑広葉樹林であったということなのだが、話がまずくて、うまく 伝わらなかったかもしれない。