杉原祐之句集『先つぽへ』を読む ― 2010/06/11 05:59
杉原祐之さんから、杉原祐之句集『先つぽへ』(ふらんす堂)をいただいた。 1979年生れ というから、30歳を過ぎたばかりでの第一句集の上梓、仄聞するところでは、 近くご結婚、鬼子母神にも参詣したという。 三重のお慶びの中にあるわけで、 まことにお目出度い。
祐之さんは俳誌『夏潮』の運営委員で、私のように「ただ見ているだけ」の 役ではない。 慶應志木高校の後輩でもあるから、「枇杷の会」でもご一緒し、 吟行で「ゴミ捨て場」や「雪隠」にまで目を付けて句にする観察眼と、新鮮な 感覚に、いつも驚かされている。
『先つぽへ』を拝読。 一言でいえば、祐之さんは「出張の俳人」だと思っ た。 大手電機メーカー社員として東奔西走、全国各地を飛び回っている。 そ の上、各所の歌枕や伝統行事(私の知らないものが多い)へ、まめに出かけて いる。 「田圃」の句が実に多い。 「稲田」「冬田」「代田」「田植」「植田」 「春田」「刈田」
代田から植田へ水の走り落つ
気動車にお尻を向けて田植かな
出張の帰りの植田明かりかな
ガードレールに囲まれてゐる稲田かな
伊吹山へと真直ぐに刈田道
慶應志木高校は、私が普通高校の一期生で、それまでは農業高校だった。 私 の時代には、まだ「農芸」という授業があって、畑を耕したり、堆肥を撒いた り、蒔いた大根を間引きしたり、柿の剪定をしたりした。 そういうことの全 くなくなった38年下の祐之さんの時代だが、国語を教えていた本井英先生は 生徒と一緒に「田圃」を作ったと聞く。 そうした志木高の伝統が、知らず識 らずの内に、祐之さんの句の中に流れているのかもしれない、と思った。
「出張の俳人」である祐之さんにはまた、サラリーマン生活の佳句がある。
社員証掛けたるままにビール飲む
パソコンに呟いてゐる夜業かな
残業の裏口を出て夜の秋
後輩の退職の日の冴返る
叱られに会社へ戻る秋の暮
句集に編むとこうなるのか、全般におとなしい印象を受けた。 『先つぽへ』 の題のように、とんがった句もどんどん発表してもらいたいと思った。
コメントをどうぞ
※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。
※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。
※投稿には管理者が設定した質問に答える必要があります。