唐招提寺御影堂の特別公開2010/06/23 08:39

 ちょっと奈良へ行って来た。 ご存知平安遷都1300年祭の開催中だが、主 な目的は唐招提寺の御影堂の特別公開で、鑑真和上像を拝し、東山魁夷画伯の 障壁画を鑑賞することだった。 梅雨時、雨は覚悟して行ったのだが、京都駅 でバスに乗る前に少し降られただけで、傘を差すことが一度もなかったのは、 まことに幸運だった。

 東山魁夷の障壁画は、第一期の「山雲」「濤声」が完成した時に日本橋の高島 屋で、第二期の「黄山暁雲」「桂林月宵」「揚州薫風」を加えてすべてが完成し た時に横浜美術館で見たことがあった。 しかし、唐招提寺へ行き、御影堂の 現場で、きちんと配置された形で、鑑真和上像とともに、庭で鳴く鶯の声を聞 きながら拝見するのは、また、まったく違う感じのものだった。 まず庭に面 した一番広い宸殿の間に入ると、海と波の景「濤声」が広がっている。 奥の 松の間が開かれていて、鑑真和上像を納めたお厨子が見え、背景の「揚州薫風」 がかすかに見える。

 「濤声」の海は、記憶していたより濃い色のように見えた。 正面、鑑真和 上像を挟んでの右と左、鑑真和上が十二年の歳月を費やし苦闘の末渡って来た 海。 左側は、ようやく到着した日本の穏やかな海。 毎日見ているという案 内の僧によると、この海は四季折々に違った表情を見せるのだそうだ。 納得 できる話だった。 濃い色に見えたのは、夏の海、夏の潮だったのだ。

 東山魁夷は夫人とともに、日本海側を広く長くスケッチして歩き、右は山口 県長門市仙崎の北にある青海島(おうみしま)のてっぺんに風に吹きさらされ た松の生えた立岩、左は能登の波を被ったどっしりとした岩の写生を基にした という。 左側の穏やかな波打ち際の構図は、島根県西端の戸田小浜のものだ そうだ。

 係りの僧が、その穏やかな海である左側の襖を開けると、上段の間の「山雲」 が現われた。一同、一瞬、息を呑み、嘆声を上げたのであった。