池澤夏樹さんの『カデナ』を読む2010/09/16 06:31

ようやく池澤夏樹さんの『カデナ』(新潮社)を読んだ。 昨年の秋、NHK 『知る楽』“探求この世界”「池澤夏樹の世界文学ワンダーランド」を見て、『池 澤夏樹=個人編集 世界文学全集』から、ミルチャ・エリアーデの『マイトレイ』、 アルベルト・モラヴィアの『軽蔑』を読んで、紹介した頃に出版され、早速買 ったのだが、なかなか手が出なかった。 ちょうど、普天間基地の問題が騒ぎ になって、今日に及んでいるというのに…。

ベトナム戦争末期の1968(昭和43)年2月、沖縄のカデナ基地に、グァム からバカみたいに大きなB-52の二十機編隊が到着する。 主人公のフリーダ= ジェインはアメリカ空軍の最高司令官である准将の秘書官、アメリカ軍人だっ た父とフィリピン人の母の間に、フィリピンで生れた。 B-52は三日後から定 期的にベトナム爆撃へ出撃する。 ジェインは、その一機の機長、暗い顔をし たパトリック・ビーハン大尉と、偶然のことから付き合い始める。 フィリピ ンにいて、資産のある有力な一族出身のジェインの母親は、反米活動組織のか なり上の方にいる(ジェインの父がアメリカ本土に帰ってしまってから、始め た活動だ)。 そしてジェインに北爆の情報を、その組織に漏らすようにと言っ てくる。

サイパンで育って、戦争で両親と兄を喪い、たったひとり沖縄で戦後を生き て来た嘉手苅朝栄(かでかる・ちょーえー)は、模型飛行機の店を経営し、ア マチュア無線をやっている。 朝栄夫婦にかわいがられ、地元のロックバンド で活躍するタカ。 朝栄のサイパン時代の旧友で、1968年に那覇で再会するベ トナム人の安南(アナン)さん。 その三人が連携して、フリーダ=ジェイン が非常な危険を冒して持ち出す北爆情報を、刻々とベトナム側に伝えていく。  日付と目標がわかれば、対策が立てられる。 B-52が壊そうとしているものを どこかに移せる。 「あのばかでかい飛行機に無駄足をさせてやりたい。…… ママの考えと似ているかもしれないけど、アメリカよりアジアの方が強いと思 わせてやりたい。」