黒鉄ヒロシさんの連想と読書 ― 2010/12/15 07:13
煙草を吸う人はだんだん肩身が狭くなっているようだ。 先日の土屋賢二さ んの三田演説会でも、イギリスの夕刊紙にある“婚活”広告で、女性の希望条件 で多いのは、煙草を吸わない人、ユーモアのある人だと、聴いた。
『銀座百点』の12月号に、黒鉄ヒロシさんが書いたエッセイ「本と本の間」 が興味深い。 ヒトラーのナチス・ドイツは、“反煙草運動”を推進し、禁煙キャンペーンの 先駆となったという側面を持っていたという。 まずドイツ女性に可能なだけ 出産させることを目指して、自分たちが唱えた“多産政策”の妨げになるとい う理由で、妊婦に与える煙草の害についての研究を進めていた。 そのうちに 「煙草を持ち込んだユダヤ人にこそ責任がある」という見当違いの主張を始め、 禁煙運動は反ユダヤ主義へとヒステリックにつながって、多くの悲劇を生んだ。 黒鉄ヒロシさんは、これを支えたナチ党の綱領を知りたくなった。 しかし、 ナチ党には綱領がなく、そのことについて追及されたヒトラーは「ワーグナー が綱領だ」と、奇妙な答弁をしたそうだ。
ここで、黒鉄ヒロシさんの連想は、政権をとって以来、さっぱり背景の見え ない対応を見せる我が国の民主党の綱領に及ぶ。 調べてみて、意思統一が計 れず、あちこちで意見が揺れるわけがわかった。 綱領がなかった。
さらに話は展開する(マスコミに、こんな自主規制があるのは、見る側も注 意しなければならないと思う)。 テレビのニュース番組(サンデー・スクラン ブル)で、このことを指摘すると言うと、ディレクターがナチスは止めてくれと 言ったそうだ。 黒鉄さんは、止めなかった。 事実を伝えてなにが悪い、と。 事後、どこからも、反論も苦情もなかったという。
煙草―禁煙キャンペーン―ヒトラー―ナチ党―綱領―民主党とつながったの は、脳内イマジネーションの旅の結果で、奇妙な偶然だが、その帰結するとこ ろはかすかに必然の匂いがすると、黒鉄さんは言う。 偶然を必然の側に少し でも近づける方法の、ほとんどは書物の中にあるというのだ。
黒鉄ヒロシさん、以前「日曜美術館」で幕末の大和絵師、冷泉為恭(ためち か)の話を聞いて、感心したことがあったが、たいへんな読書家のようである。
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