ヨネ・ノグチを支えたレオニー・ギルモア2010/12/21 07:56

 映画『レオニー』で、英国の女優エミリー・モーティマーが演じたレオニー・ ギルモアは、1901年にフィラデルフィアの名門女子大ブリンマーを卒業(在学 中にソルボンヌへも留学)、編集者になりたいという夢を捨てきれないまま、ニ ューヨークで教鞭をとっていた。 新聞で編集者募集の三行広告を見つけて、 日本から来た青年詩人ヨネ・ノグチ、野口米次郎に出会い、雇われることにな る。

 プログラムにある星野文子(国際基督教大学大学院博士後期課程)さんの研 究エッセイによると、1896年、日本人として初めて英詩集『明界と幽界』(『Seen and Unseen』)をカリフォルニア州で出版し、「東洋のホイットマン」などと賞 賛されたヨネは、文筆業での成功を夢見てニューヨークに赴いた。 そのため に英語添削者を新聞広告で募集したところ、応募してきたのがレオニー・ギル モアだった。 二人三脚の文筆業は、頻繁な手紙のやり取りと会談で行われて いたことが、当時のヨネの書簡からわかるのだそうだ。 最初に取り掛かった のがヨネ初めての小説『日本少女の米国日記』だった。 書簡からは、ヨネが レオニーに積極的な添削を求め、レオニーもその要望に献身的に応えて、この 小説はニューヨークで出版される。 ヨネはロンドンに渡り、英米で成功する ことになるが、それを全面的に支えたのはレオニーであった。

 レオニーは、なぜここまでヨネに尽くしたか。 星野文子さんは、レオニー には、英語での小説家として、また、詩人としての成功という無謀な夢を抱く ヨネに、芸術家としての素質が見え、そこに惹かれたためではないか、そして、 何があろうと、芸術家ヨネを支え続けることこそ、自分の使命と感じたためで ないのか、という。

 映画で、ヨネ・野口米次郎を演じて、英語でしゃべるのが中村獅童(観客が、 その私生活と重ねて見てしまうところが微妙だ)。 レオニーが妊娠したことを 喜んで、白い百合の花を買って帰ってきたのに、「嘘だ」と叫んで、百合をぶち まける「悪いヤツ」だ。 1904年、野口米次郎は一人日本に帰り、レオニーは ロサンゼルスの母親のところへ行って、男の子を産む。 1907年、日露戦後の 排日の動きもあり、レオニーは3歳の子供を連れて、日本にやって来る。 森 鴎外の『舞姫』、アンナ・ベルタ・ルイーゼ・ヴィーゲルトの一件を思わせる。  横浜港で出迎え、わが子にイサム(勇)と名付け、住まいと女中、定収入に三 人の英会話の生徒を用意していた野口米次郎だったが、実は日本に正式な妻が いたのだった(しかも帰国後の結婚らしい)。 日本では普通のことだと、うそ ぶくヨネは、「悪いヤツ」である。