柳家三之助の「厄払い」 ― 2010/12/31 06:57
髪を短く刈って、おでこの上に少し残しているのが、二人続いた。 三之助、 映画『小三治』で付き人をし、しきりに叱られていた弟子だ。 今日の昼間、 社団法人落語協会の「納めの寄り合い」があった。 何をするのでもなく、堂々 と昼から酒を呑める会。 会長の師匠が挨拶したが、挨拶は下手。 クリスマ スというのが終わると、ようやく静かに年の瀬を迎えられる感じがする。 先 日は、一門の忘年会を、十二月生れの師匠の誕生祝いを兼ねて、やった。 師 匠にプレゼンドをするのだけれど、何も欲しがらない、欲しいものは自分で買 っちゃう、で、温水便座にした、そのものを渡すわけにいかないから、目録、 トイレットペーパーに熨斗をつけて贈った。 工事が滞りなく終って、気に入 ってくれたか、「納めの寄り合い」で訊いたら、旅で、まだ家で行くことがなか ったが、とりあえずケツだけは洗ってみた、と。 弟子思いの、いい師匠だ、 と羽織を脱いで、「婆さんや、あいつが来ました、与太が」と「厄払い」に入っ た。
さっき、お袋が来てこぼしていったと、二十五になって、何もしないでぶら ぶらしている与太郎に、元手のかからない商売でもやってみろ、豆と御足がも らえるからと「厄払い」の口上を教える。 「ああら、めでたいなめでたいな、 今晩今宵のご祝儀に、目出度きことにて払おうなら、まず一夜明ければ元朝の、 門に松竹しめ飾り、床にだいだい鏡餅、蓬莱山に舞い遊ぶ、鶴は千年、亀は万 年、東方朔は八千歳、浦島太郎は三千年、三浦の大介百六ツ、この三長年が集 まりて、酒盛りいたす折からに、悪魔外道がとんで出て、さまたげなさんとす るところを、この厄払いがかいつかみ、西の海へと思えども、蓬莱山のことな れば、須弥山のほうへサラリ、サラリ」 今日はダメだ、来年の今日までに、 憶えてくる、じゃあ口移しで教えよう、口移しなら隣の美イ坊がいい、ふぐは 千年、東方朔は八銭五厘、と憶えられない。 しかたなく紙に書いてやり、稽 古して日の暮れ方に出かけろと言う。
稽古もせずに夕方飛び出した与太郎、「お年越しのご祝儀、おん厄払いましょ う、厄払い」という本物に、マナカじゃないかと言われ、付いていって豆と御 足だけもらおうとするが、逃げられる。 もう遅いと何軒か断わられ、でこで こに目出度いのというのが面白いと、ある店に入ることができた。 やってや らあ、その前に豆と御足、下さい。 寄席みたいな奴。 豆と五厘銭をもらっ て、豆を食い始める。 ナマんところがある、ホウロクをよくかき回せ、すい ません、お茶一杯下さい、熱い。 早く、やんな。 そこを閉めて、覗いちゃ あダメ。 あーら、うでたいな。 覗くと、ずるいよ。 鶴は十年、ひよっこ だから。 亀は、……、向かいの酒屋の看板、何て読むんですか、よろずや、 亀はよろず年。 とうぼう……、で詰まって、逃げちゃおう、となる。 あっ、 旦那、厄払いが逃げて行きます。 逃げて行く、それで今、逃亡と言っていた。
三之助、師匠のように爆笑、というわけにはいかなかった。
小人閑居日記 2010年12月 INDEX ― 2010/12/31 09:43
4886 小満んの「二階ぞめき」吉原ご案内<小人閑居日記 2010. 12.1.>
4887 小満んの「二階ぞめき」本篇<小人閑居日記 2010. 12.2.>
4888 カエルの「ひやかし」<小人閑居日記 2010. 12.3.>
4889 ポプラ社の「百年文庫」『音』<小人閑居日記 2010. 12.4.>
4890 幸田文「台所のおと」<小人閑居日記 2010. 12.5.>
4891 都立桜ヶ丘公園吟行<小人閑居日記 2010. 12.6.>
4892 桜ヶ丘吟行、僥倖の結果と主宰の選評<小人閑居日記 2010. 12.7.>
4893 桜ヶ丘吟行、わが選句と主宰吟<小人閑居日記 2010. 12.8.>
4894 戦前「禁演落語」中の知らない噺<小人閑居日記 2010. 12.9.>
4895 「大神宮」「粟餅」「廓大学」<小人閑居日記 2010. 12.10.>
4896 「笑う哲学者」の三田演説会<小人閑居日記 2010. 12.11.>
4897 “不幸”という思い込みからの脱出<小人閑居日記 2010. 12.12.>
4898 寄席に出られない噺家<小人閑居日記 2010. 12.13.>
4899 寄席ってのは…<小人閑居日記 2010. 12.14.>
4900 黒鉄ヒロシさんの連想と読書<小人閑居日記 2010. 12.15.>
4901 「熱燗」と「霜柱」の句会<小人閑居日記 2010. 12.16.>
4902 「熱燗」「霜柱」の句会、多彩な収穫<小人閑居日記 2010. 12.17.>
4903 ある近代起業家・奥山春枝の誕生<小人閑居日記 2010. 12.18.>
4904 ビルブローカー奥山春枝を支えたもの<小人閑居日記 2010. 12.19.>
4905 ヨネ・ノグチ、野口米次郎<小人閑居日記 2010. 12.20.>
4906 ヨネ・ノグチを支えたレオニー・ギルモア<小人閑居日記 2010. 12.21.>
4907 レオニーも、監督も、女優も…<小人閑居日記 2010. 12.22.>
4908 野口米次郎とイサム・ノグチ<小人閑居日記 2010. 12.23.>
4909 野口米次郎の詩から<小人閑居日記 2010. 12.24.>
4910 「日本経済の針路」を聴く<小人閑居日記 2010. 12.25.>
短信 4911 江戸文化の仕掛け人<等々力短信 第1018号 2010.12.25.>
4912 岩崎久弥・叔父弥之助と馬場辰猪<小人閑居日記 2010. 12.26.>
4913 『福澤諭吉事典』の刊行成る<小人閑居日記 2010. 12.27.>
4914 最初のワーナー日本『最後の忠臣蔵』<小人閑居日記 2010. 12.28.>
4915 山根貞男さんの映画評に感想<小人閑居日記 2010. 12.29.>
4916 金原亭小駒の「後生鰻」<小人閑居日記 2010. 12.30.>
4917 柳家三之助の「厄払い」<小人閑居日記 2010. 12.31.>
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