「福澤諭吉の提言」(1)地方分権2011/01/14 06:59

 福澤先生誕生記念会の講演は、寺崎修さんの「福澤諭吉の提言」。 武蔵野大 学学長、慶應義塾大学名誉教授。 寺崎さんの講演は、2008年5月30日に福 澤研究センター開設25年記念講演会で「福沢諭吉の近代化構想」を聴き、こ の日記の2008.6.6~7.に記したことがあった。 その時は、福沢の思い描いた 近代化日本の内、ご専門の政治から、天皇制・議会・内閣・地方制度について だった。 今回は、福沢の提言の内、今日なお実現していないものの中から、 (1)地方分権、(2)官尊民卑の教育政策、の二つに絞った。

 はじめに、福沢は政治に限っても十指に余る政策提言をしているが、ほとん ど明治政府に無視された。 例えば「日英同盟」の提言、その実現は福沢没後 のことだし、「帝室は政治社外に置くべし」や「イギリス流議院内閣制」は、戦 後の日本国憲法でようやく実現した。 「二大政党による政権交代」は一昨年 のこと、そのひと月前の日経新聞に坂野潤治東大名誉教授は「130年前の福沢 構想がようやく実現しようとしている」と書いた。 だが民主党政権の現状は、 日米関係を始めとする外交などに難問山積、公約の実現を赤字国債に頼らざる を得ず、自縄自縛の野党ボケ。 自民党は与党ボケから脱却できず、官僚は利 権の確保にやっき、マスコミはきれいごと、国民は依存心を強めるばかり。 な お数回の政権交代が必要といわれる状況にある。

 (1)地方分権…明治10年の西南戦争後、福沢は『分権論』を発表(原稿は 一年前)、在野の有能な士族層の活用、その場としての「地方分権」を提言した。  トクヴィルを参考にして、「政権」-外交、軍事、徴税、貨幣発行など中央政府 の権限(これは徹底的に中央集権化)、「治権」-道路、警察、交通、学校、病 院など一般の人民の周辺に存する権限、この二つを峻別して、地方に出来るこ とは地方に、と説いた。 福沢は「付録」で、地方への「分権」の議論があれ ば、「分財」の議論も無ければならないと、権限の委譲にはその財政的な裏づけ が必要なことにも言及している。 「一刻の猶予もならず」と福沢が言った「地 方分権」だが、100年以上経って、ようやく平成に入ってから議論が始まった。  平成7年地方分権推進法、平成18年12月地方分権改革推進法が成立し、それ ぞれ会議や委員会が提言を出したが、どれも容易に実行されず、現在は内閣府 で検討中、いまだに暗中模索という情けない状況にある。