馬治の「真田小僧」2011/07/01 06:50

28日は、第516回の落語研究会。 お仲間の券が一つ空いたので、家内の中 学時代の同級生で、この日出演の三遊亭兼好の贔屓の方に聴いてもらった。 い つもの居酒屋さん、来月で閉店という貼り紙。 ビルが立ち退きで、もうここ 一軒しか残っていなかった由。 美味しくて、安く、五、六年は通ったか、来 月11日の会が最終ということになってしまったのは、まことに残念である。

「真田小僧」     金原亭 馬治

「百川」       三遊亭 兼好

「源平盛衰記」    桂 平治

       仲入

「よかちょろ」    五街道 雲助

「刀屋」       古今亭 志ん輔

 金原亭馬治、志ん朝の兄の馬生でなく、馬治で記憶している馬生の弟子。 余 談だが、金原亭馬生の名は、野馬の生産地として有名な金原(こがねはら・小 金原とも書き、下総中野牧の一部)で、馬が生まれるという地口なのだそうだ。  松戸市小金原には、短信の読者がいた。

 黒い羽織、灰色の着物の馬治、「口先」でしゃべる感じ、厳しく言えば、心が こもらない。 「真田小僧」冒頭の「ごっこ」遊び、終身懲役の話あたり、も っと面白くできるはず。 金坊が、成田山に出かけたお父つあんには口が裂け ても言えない、留守中のおっかさんの話を小出しにする。 寄席は、先払いだ ろう、後から集めたら、誰も払わない、というのが客の身にしみて、ちょっぴ り可笑しい。 お袋は知恵があるから楽しみだと言うが、金をせしめられた父 親は「悪知恵」と言う。 子供が大人を騙すこの話、やはり子供の子供らしい ところも、うまく描かないと、後味のよくないものになってしまう。 注意が いるところだろう。

 講釈の『真田三代記』、大坂夏の陣で死んだはずの真田幸村が、薩摩に落ち延 びたという伝説が常識だった頃の、物語ではある。

兼好の「百川」2011/07/02 05:39

 三遊亭兼好、小柄で撫で肩、小じんまりと、軽い感じで出てくる。 馬治に 続いて黒の羽織に、生成りの着物。 高い声を出し、畳みかけるように語る。  「笑点」に出ている三遊亭好楽の二番弟子、昭和45(1970)年の会津若松生れ、 二松学舎大学卒、好楽に入門した時は、勤め人で妻子があったという。 この 会では、真打になる直前、まだ好二郎で「一分茶番」を聴いて、褒めたことが あった。

 「百川」、大ネタである。 「四神剣」を仕込むのに、まず江戸ッ子の祭自慢、 将軍様もご覧になる天下祭から入ったのは、よかった。 河岸の若い衆が、日 本橋浮世小路「百川」の二階で、去年の祭で金が足りず、質入れした「四神剣」 をどうしようかと相談をしている。 祭が近づき、持ち回りで隣町へ渡さねば ならない。 二階からお呼びだが、髪結が来て女中連中がみんな髪を解いてし まったために、口入屋の千束 (ちづか)屋から、紹介されてきたばかりの、田舎 者の百兵衛が、やむなくご用を聞きに行く。

 「主人家のかかえ人」を「四神剣の掛合人」と、聞き間違えられ、くわいの キントンを丸呑みするはめになる。 兼好は、百兵衛が羽織を着ているから丁 度いいというのはやらなかったが、河岸の若い衆の初五郎では、わざと錆びた 声を出し、百兵衛にまず酒を勧めて、酒はやらねえと言われると、では甘味を と、くわいのキントンを小皿に出すことにした。 「ここのところは、わしの 顔をつぶさずに、呑み込んでもらいたい」「できなかったたら、ごめん、ネ」

 大ネタへの挑戦、まだまだ道は遙かで、その第一歩を踏み出したというとこ ろだろうか。

桂平治の「源平盛衰記」前半2011/07/03 05:32

桂平治、久しぶりだ。 「源平盛衰記」は、十代目桂文治、伸治が長かった、 背が1メートルくらいの師匠の若い時分のドル箱だった。 「女給の文」や「反 対俥」は教わったが、「源平盛衰記」を習おうとすると「あの噺は骨が折れる」 と言った。 師匠は晩年、「源平盛衰記」はやらず、「やかん」をやっていた。  十代目が亡くなって八年目の来秋、平治は十一代目を継ぐと言って、拍手をも らった。

大月や秩父には、寄席がない。 寄席で近所に歓楽街のないのは、ここだけ。  隣が最高裁じゃあ用がない、最高裁に用があるのは羽賀研二ぐらい。 池袋演 芸場は、ある場所自体がいかがわしい。 No.1がシンドーさん、No.2がカワ ムラさんという。 シンドーさんは、鰐亀によく似ていて、恐い。 地下2階、 大震災で震度5が、震度6~7の感じだった。 落語家が最初に逃げ出して、 ひどく怒られた。 震度5より、シンドーさんが恐い。 逃げた落語家は、玉 の輔。 あたしは余り行かないが、歌舞伎町あたりへ行くと、隠しカメラにこ の顔が映る。 ウーパールーパーみたいな顔。 ポン引きと、大きなスリット のチャイナドレスの女が寄って来て「おビール飲んでらっしゃいよ」、4~5人 寄って来て飲むと、28,600円、No.1は胃が丈夫。 「驕る平家は久しからず」

木曽義仲は、入間川の辺で育った。 熊谷からちょいと入った妻沼という所 が、木曽義仲を助けた斎藤別当実盛のゆかりの地。 熊谷は今「くまがや」と いうが、「くまがい」が本当、JRの駅員に直せと文句を言ったら、「いやー、絶 対に、ナオザネー」。 年寄で潔い人はいません。 歌丸は倒れても、必ず復活 する。 その師匠の米丸は、八十六歳、毎日寄席へ来るのがリハビリ。 入れ 歯がマグネットになっていて、鉄の箸置、鉄の柱に、くっついちゃう。 白の 上下に、伊勢丹で買ったパナマ帽をかぶってやってくる。 呆けて亡くなった 噺家はいない。 そう一人いる、夢楽師匠。

小さんの葬式に、圓歌と伸治と橋本龍太郎、身長1メートルくらいのが三人 並んでいた。 橋本龍太郎は柳屋のポマードこってり塗って…、柳家の弔いだ から。 八代目の正蔵は名前を海老名家に返して、彦六になった。 ショウゾ ウ権は、写真だけじゃない。 その正蔵の真似、みんながやる。 盛りのつい た山羊の物真似「メェーーーーッ」、「お稲荷さんの鳥居が赤いのはなぜか? バ カヤロー、塗ったからだよ」 木曽の義仲に攻められて、平家十万の軍勢が雨 の中で野営をした…。

桂平治の「源平盛衰記」後半2011/07/04 06:32

噺家の話は当てにならない。 平治の「源平盛衰記」は、ことに当てになら ない。 それを書こうというのだから、馬鹿げている。 「ボワーーッ!」と、 戦場で法螺貝を吹く。 攻める時に吹く。 柳昇に聞いた。 逃げる時は、吹 けない。 あれで、戦争に行った。 今度、戦争したら、負けないと、言って いた。 生放送のNHK「スタジオパーク」で、「与太郎戦記」の話になり、「戦 争は楽しい、何人殺してもいいんですから」って、言っちゃった。 生放送、 言った方が強い。

いま政治を司る人が、一人もいない。 政治家は、寄席には一人も来ない。  例外は森喜朗、楽屋から客席を見て、来ていると、親子で与太郎なんて小噺や、 車で突っ込んだなんて話はできない。 あの人はしゃべり過ぎ、次の選挙には 釧路から立候補するらしい、あそこは湿原が多い。

こう見えて、USAの生れ、大分県の宇佐。 乞食といっちゃあいけない、ホ ームレス。 ホームレスというと、かばんを持って、会社へ行くようだ。 ハ ローワークより、口入屋の方がいい。 ミス○○より、小町。 家の近くの成 蹊大学でミスコンがあるという。 知ってる女の子に、ミス成蹊より、成蹊ミ スで出たらどうだと言って、あれから絶交。

桂平治、ほとんどまともな話をしなかったと気付いたのか、江戸屋猫八のう ぐいす笛の話をして、自分も歯の隙間で音が出せる、ホップ・スキッパ・ジャ ンプ、ドレミファソラシドを吹いてみせた。 最後の音が下がって、その日に よって出来不出来がある、人間だもの、と言った。 能登守教経(のりつね)、 踊る平家は久しからず。

教訓…この程度のことを言って、面白く聴かせるのが、話芸である。

雲助の「よかちょろ」2011/07/05 06:29

先月「よかちょろ」って、どんな噺だっけ、と聞かれて、答えられなかった。  昭和43(1968)年の第1回から落語研究会に通って、この体たらく、侍なら切腹 するところだ。 聴いたことがあっても、忘れちゃうような、ごく短い、どう でもいい噺なのである。 「山崎屋」という噺の、冒頭部分を三遊亭遊三とい う人が、独立させたものだという。 この人、旧幕の頃、お賄い御家人だった のが、寄席通いばかりしていて、ついには噺家に弟子入りして高座にも出た。  維新後、親戚に意見されて廃業し、司法省の官吏となって検事から判事にまで なったのだが、ある裁判で美人の被告に誘惑されて、曲がった判決をして免職 になり、再び落語家となって遊三を名乗り、一家をなしたという人物だそうで ある。

遊びイコール女郎買いだった頃、このところご辛抱なさっていると、番頭が 請け合うので、若旦那の好太郎に、与田さんの掛け金二十両を取りに行かせた。  二日経っても、三日経っても、帰って来ない。 困ったものだ、のべつはいけ ない、みっちり小言を言おうと待ち構えているところに、帰って来る。 花魁 が大事か、親旦那様が大事か、と番頭に聞かれ、それはたった一人、花魁さ。  二十両は? ございません。 二十両と言えば、一晩や二晩で使いきれる金で はない。 筋道のある使い方をした。 怒って入れ歯が外れた親爺、三文でも 違ったら許さない、と言う。

じゃあ、髭剃りを五両、と願います。 何人分だ? 一人分。 髭剃りなん て、三十文もあれば、出来るだろう。 花魁は、三階十二畳の角部屋にいて、 風が通る。 おまめどんと猫がいる。 「よかちょろ」を十五両、座敷うちで いずれ流行るだろうというので、仕入れた。 そうか、さすが商人、儲かるも のか、見てみたい。

(座ったままの、手踊りで)「^ヘ 女ながらも、まさかのときは、ハッよかち ょろ、主に代りてェ玉ァ襷ィ、よかちょろ、すいのすいの、して見てしんちょ ろ、味を見ちゃ、よかちょろ、しげちょろ、パッパー」 婆ァさん、腹かかえ てケラケラ笑うんじゃない、こんな倅が出来たのは、お前の畑が悪い。 あな たの鍬だって、悪い。 この顛末は、来月、申し上げます。