食いしん坊俳句「枝豆の王」2012/01/01 05:22

 明けましておめでとうございます。 今年も落語研究会の覚書を中断して、 俳誌『夏潮』一月号の親潮賞応募作を、初笑いのタネにご覧いただくことにし た。 タイトルは「枝豆の王」、七十年間の食べ物の思い出を並べた。 第3 回の今年、黒潮賞(60歳未満)は櫻井茂之さんの「五百余羽」、親潮賞は田島 輝子さんの「蓑虫」が受賞した。

春告魚焼く煙の中に母は居た

母逝きて鯵の煮方を訊き洩らす

木曽川の鮎の煮浸し卵びしり

海鳴りや椀をはみ出す蟹の脚

その母の蟹と蝦蛄とを茹でてくれ

焼茄子にほんのり残る焦げ臭さ

枝豆の王鶴岡のだだちや豆

大石田茂吉も食みし西瓜かな

秋茄子を七輪で焼くしうしうと

むかご飯死んだ親父の猫背して

塩で食ふ鯊天婦羅の軽さかな

お接待土佐文旦の持ち重り

生牡蠣や喉にも味蕾ありにけり

鰰の卵の粘り喉つまる

荒海にもまれし鱈のどんがら汁

二の酉や堅焼のみの煎餅屋

湯豆腐はちりちりしたらと祖母と母

友の愚痴鋤焼甘く煮詰りて

千疋屋苺ショートの聖夜かな

煮こごりや姉(あねや)小路のおくどさん

扇遊の「芝浜」前半2012/01/02 05:07

 大晦日の噺である「芝浜」が二日になって、まことに間の抜けた話である。  責任は歌奴と、さん喬にあると言いたいところだが、全ては簡潔にまとめられ なかった閑居小人にあるのだろう。

 押し詰まってまいりました、と出て来た扇遊、平々凡々が有難いという。 師 匠扇橋(このところ、体調を崩しているようで、落語協会のメルマガに新作の俳 句が出ず、心配だ)の俳句は、ごくごくささやかな日常を、さりげなく詠む。 私 (扇遊)の好きな、今時分の句は、〈冬支度してゐる妻と二人かな〉ってんですが …、「お前さん、起きておくれよ」と、「芝浜」に入った。

 こんだけ休んじまってんだから、今日ァ、魚勝でござんす、なんて行っても、 ほかの魚屋が入ってるんだい、駄目だよ、なんて剣呑(けんのみ)食って、帰っ てくるのがおちだ。 飯台(はんでえ・盤台)は、糸底に水が張ってある、包丁 は、お前さんもそこまで料簡がくさってないとめえて、ちゃんと研いで、蕎麦 殻ンの中へつっ込んであるから、獲れ立ての秋刀魚みたいにピカピカ、草鞋は、 出てます、仕入れの銭(ぜに)は、馬入(ばにゅう)に入ってるよ。

 (安藤鶴夫さんの『落語鑑賞』巻末の語釈によれば、「剣呑(けんのみ)を食う」 の剣呑は、相撲の「剣の峰」土俵の俵の頂上で、けんつくに同じ。言葉も荒々 しくつっけんどんに叱られること。 「馬入(ばにゅう)」は、肩にかついだ天秤 棒の、先にさげた盤台のまたの名。魚を入れる。)

 磯っ臭せえ匂い、生き返ったようだ、切通しの鐘か、やっぱりいいな。 (一 ッ時早く起こされて、行った芝浜で皮の財布を拾い、慌てて家へ。)

汚たねえ財布だ、二分金ばかり。 数えてみな。 チュウチュウタコカイナ、 チュウチュウタコカイナ、手が震えて、数えられない。 ヒトヨヒトヨフタフ タ、ヒトヨヒトヨフタフタ、四十二両あるぜ。 早起きは四十二両の得、運が 残ってたんだ。

「お前さん、起きておくれよ」 今、聞こえるよ、切通しの鐘、明け六ツだ よ。 悪い夢、見たんだよ。 夢かな。 夢、だーよー。 俺はガキの時分か ら、はっきりした夢見るんだよ。 銭を拾って来たのは夢で、飲んだり食った りしたのは本当かい。 あの勘定、おっつかねえだろう、死のうか。 なにを いってんだよ、お前さん、しっかりしておくれよ、一生懸命働けば、なんとか なるよ。 借金も、あの金もか、おっかあ、助けてくれ、俺は酒をやめる、家 のことは頼むよ、これから河岸へ行く。

扇遊の「芝浜」後半2012/01/03 04:36

 魚勝の料簡が、すっかり変わった。 お酒というものは、誰かが止めてくれ るのを待っているものだ、私(扇遊)が言うのだから間違いない。 とことんま で落ちると、何かのきっかけで、自分が変わる。 我精に(骨身を惜しまずに) 働く、もともと腕のいい魚屋だから、お得意も戻る。 やがて表通りに小さな 店を出し、若い衆の二、三人も使うようになる。

三年たった大晦日。 おかみさんは、若い衆をみんな湯に行かせる。 湯か ら帰った勝五郎、家の中が明るくなったのに気付く。 畳替えしたんか、いい な、畳の匂いがたまらねえな、昔っからよく言うな、畳の新しいのと、かかあ の……かかあは古い方がいい。

 もう借金取は来ないし、お支払は全部済んでいるよ。 こんな大晦日は、初 めてだ。 何年前か、俺が押し入れに隠れていて、出た途端に、米屋の番頭が 忘れ物をして戻ってきやがった。 お前が、風呂敷を頭からかぶせた。 米屋 は、寒いですね、風呂敷も震えてますよって、言いやがった。

 雪が降ってきやがったのか、さらさら音がする。 笹が触れ合っているんだ よ。 そうか、湯の帰ぇり、星が降るようだったっけ。 酒の飲める奴は、い いだろうな。 お前さんに、見てもらいたいもの、聞いてもらいたいことがあ る。

 大家さんと相談して、夢ということにした皮の財布の四十二両、前からお下 げ渡しになっていた。 今日言おうか、明日言おうかと思って…、すまなかっ たねえ、私はこれで気が済みました。 ぶつなり、蹴るなり、気が済むように して下さい。

 手を上げてくれよ、いいから手を上げてくれよ、おっかあお前ぇはえれえな あ、銭を使っちまって、お上に知れりゃあ、よくて遠島、お情けで佃の寄場送 りだ。 墨入れられて、今頃はコモ被って震えてなけりゃあならなかった。

 怒られたあと、機嫌が直るように、お酒の用意がしてあるんだよ。 私が飲 んでおくれってんだから、いいじゃないか。 好きなものも、こしらえてある。  そうですか、本当に飲んでもいいのか、俺じゃないよ、お前が飲めと言ったん だよ、ありがてえな。 いいや、よそう、また夢になるといけねえ。

いただいた賀状から2012/01/04 04:14

 頂いた年賀状で楽しかったもの、嬉しかったものが、いくつもあった。 俳句の会の先輩で、いつも垂涎の上手な句をおつくりになるSさん。 昔「轟 先生」という漫画があったが、ああいうスタイルの漫画で、二人の老人が梅の 花を見ながら、俳句を詠んでいる。 一人はゴマ塩頭で着物に下駄履き、禿げ たもう一人はセーターで縁台に腰かけている。 二人とも、襟巻をしている。  題は「考へず故にわれ在り」之巻。 縁台「それにしても俺達の俳句 上達しね えなァ…」 着物「そりやそうヨ 頭使わねえもん」

 お孫さんの写真というのは、定番の一つだ。 高校同級生のО君、「4月から 第3の人生をスタートさせます」とあり、御夫妻がサングラスで、どこか南洋 の動物園で撮ったらしい写真である。 ニコヤカな御夫妻が、お孫さんのよう に真中に挟み、肩を抱き、前にも手をまわしている、オレンジ色のセーターを 着て、こっちを向いているのは、ゴリラの子供…。 そのスリーショットが、 何とも笑っちゃうのだった

 昨年2月の等々力短信「ある小さなスズメの生涯」に、「あるメジロの物語」 <小人閑居日記 2011. 3.13.>を寄せてくれた大学同級のU君は、例のハガキ の表裏に小さな字でびっしり、12月の等々力短信「生活の中のデザイン」の感 想を書いてくれた。 あの短信から、これほどのことを考えてくれたとは…、 短信子冥利に尽きる。 以下に引く。

 「生活と身体で測る」何とも温もりのある言葉です。 日本人の伝統を引き 継ぎ営々と培ってきた生活の実体験から生まれたもの、素朴な暮しの中で「ま あ、この辺りかな」と体で感じ取った数値が見事なまでに75ミリに結実した。  話は飛躍しますが、生活と身体で測る素朴な匂いのするほど良い節度が戦後67 年、世界に冠たる1,400兆円の資産を造り出したのでしょう。 しかし国の借 金は1,000兆円にもなり、昨今の為政者は1,400兆円まではまだ大丈夫と言っ ております。 他人の財産を狙って、借金をする、これが国の舵取りを任され た政治家のすることでしょうか。 400万の収入で900万の生活をする。 500 万の借金が積み上る。 一般市民や企業は恐ろしくてこんなことはしません。  「生活と身体で測り」収入の範囲内で暮すでしょうし、且、将来の不安に備え て貯金もするでしょう。(…途中、日本が破産し、食料の輸入が出来なくなり、 戦後と同じに飢えて買い出しに行く光景、国会総取り替え論など、長く略す…) 

私は毎朝近くの河原まで歩き深呼吸をします。 午後から近くのプールで泳 ぎます。 歯も良く磨きます。 病気になる前に、健康な体作りに努めます。  地方の自治体で公民館に運動器具を用意して老人の筋力を鍛えた処、医療費が 減少したそうです。 生活の中で身体で測りながら、日本再生を目指しましょ う。

2012年・平成24年、年頭の挨拶状2012/01/05 04:31

 当方は十年一日の「御慶」であったが、賀状というより東日本大震災に配慮 された年頭挨拶状も多かった。 「龍」などの絵柄だけのもの数通のほか、そ れぞれに苦心のあとが見られて、お人柄がしのばれた。

 「素敵な年でありますよう」

 「希望」

 「“絆”「向きあう」「伝えあう」「支えあう」」

 「あけました 皆様の健やかな一年を心よりお祈りします」

 「大災害からの復興に祈りを込めて 新春のお慶びを申し上げます」

 「また一年 明けました」

 「“絆” 謹賀新年と大きな文字は書き憎い昨年でしたが「心機一転」良い年 でありますように」

 「希望に満ちた年となりますように」

 「新しい年が明けました。東日本大震災の被災地の一日も早い復興をお祈り したいと思います。」

 「本命平安」

 「皆様のご多幸をお祈り申し上げます」

 「謹んで新年のご挨拶を申し上げます」

 「東陽初日」

 「“た”のしく “つ”よく 生きる年」