ベオグラードに響いた信時潔の「塾歌」 ― 2012/06/18 02:24
『三田評論』6月号の巻頭随筆「丘の上」に、山崎洋さんの「ベオグラード に響く塾歌」という一文がある。 山崎洋さんはセルビア共和国ベオグラード 市在住の翻訳家で、塾員だそうだ。 今年の3月14日、ベオグラードのグワ ルネリウス芸術センターで、東日本大震災一周年、犠牲者の慰霊と復興への願 いを込めた音楽会が開かれた。 セルビア在住の豊嶋(てしま)めぐみさんの バイオリン、岩井美子さんのピアノで、ブラームスのバイオリンソナタ第三番 のほか、信時潔(のぶとききよし)作曲の作品である舒明天皇御製「やまとに は」、在原業平の和歌五首が演奏された。 そしてアンコールに、信時潔作曲 の慶應義塾大学「塾歌」が取り上げられた。 早めのテンポで、すっきりと弾 かれた「塾歌」を、日本を出てから五十年ぶりに聴いた山崎洋さんは、立ち上 がってステージに近寄り、二人の手を握って「ありがとう」と言ったが、それ 以上の言葉は喉につかえて形をとらなかったという。
留学中のドイツ・デトモルト音楽院でチェリストのイムレ・カールマン氏と 知り合い、結婚、15年前にセルビアに来た豊嶋めぐみさんは、ノビサド芸大で 教鞭をとり、音楽の力で日本とセルビアの文化交流に欠かせぬ人だそうだ。 そ の豊嶋さんが4年前、信時潔の歌曲「茉莉花」の楽譜を贈られ、初めて信時潔 の作品に触れた。 弾いてみて、あまりの美しさに涙が止まらなかったという。 以来、毎年、国分寺いずみホールで開かれる「信時潔記念コンサート」で演奏 するようになり、2010年のコンサートの後、国分寺在住の塾のOBに「この次 はぜひバイオリンで塾歌を聴かせてほしい」と言われた。
昨2011年春、豊嶋めぐみさんから塾歌の楽譜が欲しいという話があって、 山崎洋さんは同期の近藤節夫さん(昭和38経)に相談する。 旧ユーゴに観 光の仕事で来た時、通訳として手伝って知り合った人だ。 近藤さんは、飯田 鼎ゼミの一年下で音楽に強い赤松晋さん(昭和39経)を煩わし、その志木高 時代の後輩で、ワグネル・ソサィエティーで歌っていた鴻田益孝さん(昭和40 法)から楽譜を入手した。 近藤さんのいわゆる「塾の輪と和の力」で、ベオ グラードに「塾歌」が鳴り響いたというのである。
この『三田評論』を読んで、私はすぐ、赤松晋さんに電話をした。 志木高 1年生以来の同級生、慶應のABC順の出席簿の隣、長い付き合いだ。 最近は、 上野浅草フィルハーモニー管弦楽団でチェロを弾いていて、6月24日に浅草公 会堂である定期演奏会を、聴きに行くことになっている。 一年下の鴻田益孝 さんも知っている。 赤松さんは『三田評論』に記事の出ていることは聞いて いたが、まだ現物を見ていなかった。 それでコピーをし、さらに友人宮川幸 雄さんが同人誌『うらら』第61号(2011年5月)に載せた「『塾歌』から見 えてきた『信時潔』」をコピーして送ったのだった。 「信時潔」について書 かれたそのエッセイの素晴らしさを、よく憶えていたからである。
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