橘家文左衛門の「笠碁」2012/09/03 01:12

 橘家文左衛門、前に一度2009年11月26日の第497回に出た時も、古今亭 菊六といっしょだった。 黒くて丸くてでかい顔、ゆったりと出て、残暑厳し き折からご苦労さんでございます、と言う。 昼、近くの銭湯へ行くと、男湯 に誰もいなくて、貸切状態、湯に浸かってつい「与作」を歌った。 「ヘイヘ イホー」とやると、女湯から「トントントン」、「ダダダダダ」と間奏。 駆け 引きのいいおばさんで、結局「与作」を全部、歌わされた。

 「笠碁」、幼馴染の碁敵同士の噺である。 この一手、待ってくれませんか、 「ダメ」で始まる。 どうしても待てないなら、一言言いたい、一昨年の暮の 28日、商用で200円必要だが、倅が印形を持って大阪に行っているからという ので、融通したのを、忘れたか。 覚えています。 だが年始に来ない、6日 になっても来ない、夕方暗くなって裏口から来て、倅が都合で25日まで帰れ なくなったという。 あの時、15日が30日でも、待てませんと言ったかい。

 待てません。 強情な。 強情だ、ここは私の家だ、と盤面をごちゃごちゃ に壊す。 我儘な。 それが何か。 帰ります。 帰れとも言っていないのに。  「ヘボ」 「ザル」 金輪際、あなたとは碁は打ちません。 けぇれ。 けぇ るよ。

 「碁敵は憎さも憎しなつかしし」 朝からお茶ばかり飲んでいる。 また雨 だ、ばばぁ、退屈だねえ、碁なんか打ったら楽しいだろうね。 待ってやりゃ あ、よかった。 出かけよう、どうせあいつもいるんだ、店の前を通ってやろ う。 お山に行った時の、菅笠をかぶって出かける。

 定吉、火がないよ、雑巾がけはよく絞ってしなけりゃあダメだ、店へ子供た ちを出すな、番頭、大あくびをするな、と小言ばかり。 碁会所でもいらっし ゃったら、どうですか。 碁会所はダメだ、相手が強すぎる。 美濃屋に使い をやりましょうか。 言い過ぎたさ、あいつは子供の頃から強情で、言い出し たら聞かないんだ。 碁の支度をして、甘いもの好きだから羊羹切って。 あ っ、来たぞ、何で菅笠かぶってんだ、首振りながら行っちゃった。 また戻っ て来た。 目がチラチラ合っている。 口を利くな、そこにいる。 ポストの 陰だ、巳年の男は執念深いんだ。

 パチンという、音がした。 たまらねえ、いい盤石だ。 誰と打っているん だろう。 「やい、ヘボ」 「なんだ、ザル」 「ザルだか、ヘボだか、一番 やるか」  こどもの時分からの友達だ。 生き残っている友達は、あなただけだ。 お かしいね、盤の上に水が垂れる。 なんだ、あなた、笠をかぶったままだ。

 「笠碁」というと、先代の馬生、先代の小さんを思い出してしまう、私が悪 いのだろう。 大ネタに挑戦した文左衛門、一生懸命に筋を追っているだけで、 幼馴染同士の微妙な心理の可笑しさ、哀しさを描ききれなかったように感じた。

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