「葛水」、「久助」、トレハロース2013/05/22 06:42

 <葛水にかきもち添へて出されけり>。 今やその「葛水」が消えて、どう いうものかわからない。 虚子編『新歳時記』に「葛を冷水に入れ、掻き立て て飲むものをいふ。渇を醫すると稱せられる」、ホトトギス『新歳時記』に「葛 粉に砂糖を加え、熱湯をさし加熱して葛湯を作り、これをさまし冷水でのばし たものである。口あたりもよく渇をいやし、胃腸にもよい。古くは水溶きした 淡(うす)葛水をそのまま飲用した」とあるけれど。 「葛水」が体にいいの で、ノドが渇かないようにと、「かきもち」を添えて出したというのは、特別な 人への、例外的なねぎらいだったのではないか。 吉野葛の吉野久助堂のパン フレットの古い方には「葛水」があったので、電話して訊いてもみた。 氷水 (こおりすい)、甘露水(透き通ったシロップ)の「水」のようなものか。

 こわれ(くず)煎餅を「久助」というのは、吉野葛の別称である「久助葛」 の「くず」から来ている。 店に山本道子さんが生れる前からいた和菓子出身 の職人のお爺さんがいた。 日本中の菓子屋を修業で回っていて、それを「西 行」というのだと聞いた。 店で狐祓いをしたりして、山伏的なところもあっ た。 磯部温泉の磯部煎餅はカルルス泉を加えている。 権利があって外に出 さないのだが、それを壜で貰ってきて、ゴーフルに入れて焼いたりしていた。  磯部煎餅は、ゴーフルが原点なのだろう。 そうした全国を回る渡り職人によ って、「久助」という仲間内の隠語が全国へ広まったのではないか。

 葛には、非常な力、不思議な力がある。 葛を使った葛菓子には、葛饅頭、 葛桜ぐらいしかなかったのが、大変革期を迎えた。 元々は水飴屋さんだった 会社で、トレハロースという椎茸などに含まれる天然由来の糖質の量産化に成 功する大発明があった。 チロル・チョコ、きなこ餅の大ブーム、雅なハスの デンプンのお菓子などで使われている。 従来、葛桜などは葛も薄く、短時間 しか持たず、葛が流れてしまったり、白濁する欠点があった。 トレハロース は、葛の多さ(厚さ)に貢献、戻らないから白濁しない。 今や、葛饅頭、水 饅頭がネットで売られている。 透明感、しなやかな涼感も、変わって来てい る。

 <今一奮發一奮發唐辛子>。 虚子は、エネルギーを取り込むことが得意だ った。 虚子の健啖はすごい、エネルギーを感じる。