歌武蔵の「五貫裁き」後半2013/06/10 06:48

 徳力屋では、奉公人の一人が、奉行所にその一文を持って行った。 昼近く まで待たされて、徳力屋万右衛門はその方か。 いいえ、奉公人で。 いかん、 いかん、徳力屋万右衛門が、町役人同道で、納めに来なければならぬ。 町役 人にも日当を払わねばならない。 奉行所に行っても、待てど暮せど、呼び出 しがない。 町役人の額には、ジュンサイのような青筋が…。 五貫文の科料 金一括で納められませんか。 駄目だ。 奉公人の名代は? 駄目だ。

 店やっている内に、一文持って行きな。 さっき、日が落ちたばかりだ、今 朝早く持って行ったんだから、寝てるよな、こんばんは、徳力屋さん、おはこ んばんは。 何だ、八っつあん。 御奉行所に届ける、明日の分で。 奉行も ヘチマもあるか。 怒っちゃったよ、よし俺もここに寝よう。 そこへやって 来たのが、町回り同心。 奉行もヘチマもあるか、帰えれ。 何と申したか。  ヘチマのご家来、本当のお役人だ。 さんざん油をしぼり、徳力屋が受け取ら ないようなら、すぐに番所に来い、と。

 これ面白いね。 ようやくわかってきたか。 示談にしてくれるはずだ。 一 文、持ってきな、明後日の分だ。 一人も、寝かしちゃあダメだ。 あれ、開 けてくれないのかな、どうしようかな。 徳力屋では、みんな参っちゃった、 この五日寝てない。 皆済ますのに十三年かかる、半紙も五千枚、町役人の日 当も莫大だ。 いくらか渡して、示談にしよう。 後ろに大家がいる、ここは 十両、十両渡せば安らかな眠りが約束される。 番頭、十両持って行こう。

 妙な音がする、イビキだ。 八っつあん、起きてくれ、徳力屋だ。 大家の 所へ付き合ってくれ。 事の起こりはお前だ、百両にしてやってもいいぞ。 冗 談言っちゃあいけねえ。

 一体いくらお出しすればよろしいんでございましょうか。 もうちょっと前 へ、八五郎は乞食じゃないんだ。 人情に背いているから、大岡様がこういう お裁きをなさった。 グーとでも言ってみろ。 グー、ワシが悪かった。 二 十両で示談になった。