秋、金原亭龍馬になる小駒の「釜どろ」2013/07/01 06:30

 26日は、第540回の落語研究会だった。 隣席の友人の券が空いたので、昨 秋落研(オチケン)OB会の落楽名人会で「七段目」を好演したゼミの後輩を 誘ったら、前座の天婦羅屋から参加してくれた。

「釜どろ」     金原亭 小駒

「崇徳院」     隅田川 馬石

「錦木検校」    柳家 喬太郎

       仲入

「悋気の火の玉」  柳家 小満ん

「大山詣り」    入船亭 扇遊

 小駒は赤い着物に、青い羽織。 カースト制を経て、9月下席の鈴本から、 金原亭龍馬で真打に昇進するという。 野馬産地の下総小金原に馬が生れるに 由来する、初代金原亭馬生の、馬派と呼ばれる門下には、馬に関する芸名があ る。 馬生十哲にも、次に出る隅田川馬石、蝶花楼馬楽、鈴々舎馬風、朝馬、 など。 だが残っているのは満州亭馬賊しかなく、それは断って、龍馬にした。  他に四人同時真打昇進で、川柳つくし、三遊亭天どん、三遊亭金兵衛改メ三遊 亭金朝、柳家喬四郎改メ柳家喬志郎、薄ぼんやりした五人で五十日間の披露興 行を打つそうだ。 「来てね」と、大声を上げる。 以上、業務連絡、これで 仕事は八割終り、と。

 石川五右衛門の弟子で二右衛門半、その下が一右衛門、そのまた下の無(な し)右衛門、本名は長十郎、生れは二十世紀、何か匂うと思ったら、コウスイ の匂い。 五右衛門が釜茹での刑になったので、釜だけを盗むことにする。 相 棒が、いいのか? カマワネエ。 豆腐屋の釜が、軒並み盗まれる。 ある豆 腐屋、夜になると、爺さんが釜の中に隠れることにする。 「カマナカシカノ スケ」と、見得を切って、釜に入る。 婆さんがフタをする。 少しずらすと、 三日月なりの光が見える。 明日朝、俺を出してから、水を入れろ、出してか ら、火にかけろ、と。 弔いが楽なのに、と婆さん。 退屈だ、一緒に寝よう。  いやだ、隣の八っつあんでも呼びますか。 男同士だと、お釜になる。 洒落 のわかる芸者でもいれば、いいんだが…。 何ですか、ジジイ。 飲みてえ、 酒持って来い。 なんだ、酒だけか。 うめえな、所が変れば、味が変わると いうけれど。 大阪あたりの酒か、カマガサケ…。 爺さん、ぐっすり寝込ん だ。

 この釜を、泥棒がまんまと盗み出す。 目方があるな、つぶしていくらにな る。 月夜に釜を抜く、とは、この事か。 担ぎながら、イビキかくな。 気 のせいでしょう。 「婆さん、婆さん」。 何か、言ったか? 気のせいでしょ う。 「水を一杯」と、手が伸びたので、驚いた泥棒は釜を放り出した。 グ ワングワングワンと、釜が転がって、ようやく落ち着いたところで、目を覚ま した爺さん、「きれいな星空だな、しまった、今夜は家を盗まれたか」

 小駒、真打昇進前で調子に乗っているはずなのに、今一つだった。 それが、 たった二割という失礼な噺への力配分と、噺自体の所為(せい)だけならよい のだが…。

馬石の「崇徳院」2013/07/02 06:31

 薄緑の着物に黒の羽織、小駒とちがい違和感がない。 気の病、毎日食べる ものに困るという。 朝パン、昼そば、夜ご飯。 朝パン、昼ご飯、夜そば、 といったパターン。 はずれがないのが、カレー。 朝パン、昼そば、夜カレ ー。 先日、昼にカレーそば(うどん?)食べた。 夜、困った。

 「崇徳院」はお馴染の噺である。 若旦那が患って二十日、いろんな先生に 診てもらったが、わからない。 ある名医が、腹に思っていることがあるから だと言ったが、本人は誰にもしゃべらない。 五日食べてない、あと五日しか もたないかもしれないと、気心の知れた出入りの熊さんが呼ばれる。 大きな 声でなく、小さな声で聞いてくれと、言われていたのに、「ドーシマシタ!」と 大声。 二十日前、上野の清水様の茶店でお嬢さんを見て、びっくりした。 目 が一つ? 水が垂れるような。 蜜柑を踏んづけたような? いい女のことを、 水が垂れるようなという。 ドイツ語で? お嬢さんが茶袱紗を落としたのを 拾ってあげると、短冊を渡して、帰った。 「信あれば徳あり」、上野の清水様 のことだ。 短冊には「瀬をはやみ岩にせかるゝ滝川の」。 短い都々逸ですか?  崇徳院様のお歌、下の句は「割れても末はあわんとぞ思ふ」。 それ以来、鉄瓶 も、掛軸の達磨も、熊さんの顔も、みんなお嬢さんに見える。 恋わずらいと、 判明するが、どこの誰かがわからない。

 旦那に、蜜柑を踏んづけたようなお嬢さん、と報告すると、水の垂れるよう な、と親子だから同じことを言う。 探し出したら、三軒長屋をそっくりあげ る、草鞋をありったけ持って行け。 倅はあと五日しかもたない、三日で探せ、 万一のことがあったら、お前は倅の仇だ。

 家に帰ると、かみさんは、お店(たな)の話ってのは、草鞋を売って来いと いうのかい。 三軒長屋と聞いて、早く行っておいで、大家さんになれる、こ の草鞋も持ってと首から下げさせ、荒物屋の店先のようになる。 見つけない で帰ってきても、家に入れないよ。  歌を読んで歩く。 一つちょうだい。 売り切れで。 大勢、子供がついて くる。 三日たっても、見つからない。

 そうだ、人が集まる所だ、床屋、湯屋。 床屋が空いていれば、ハイさよな ら。 五六人つかえていると、喜んで、ドブ掃除みたいな人。 煙草を喫って、 「瀬をはやみ…」とやる。 すると、ウチの娘がそればかりやっているという 人がいた。 ご器量は? 近くでは、鳶が鷹を産んだようだと。 水が垂れま すか、蜜柑を踏んづけましたか。 いや、こないだ大福を踏んづけたけれど。  おいくつで? 八つ。

 床屋三十六軒、湯屋に十八軒、ヘトヘトになって、顔はヒリヒリ、頭はツル ツル。 そこへ、お店のお嬢さんが恋わずらい、相手がわからず、見つければ、 酒樽が三十樽、祝儀はどれだけ出るかわからない、明日は四国へ探しに行くと いう男が現れる。 お互いに、自分の方に連れて帰ろうとして、取っ組み合い となり、床屋の鏡が割れる。 文句を言う床屋に、心配するな「割れても末は あわんとぞ思ふ」。

 馬石、「蜜柑を踏んづけた」「ドイツ語で」といったクスグリの間が絶妙で、 上々の出来だった。

喬太郎の「錦木検校」前半2013/07/03 06:32

 人間には階級がある、士農工商、大大名の酒井雅楽頭、文武両道に秀で、俳 句も詠めば、洒落の一つも言う。 名馬に「三味線」と名付けた。 雅楽が乗 るからで、ドウ(胴)も、駒もある。 家臣が乗ったら、どうなるか? 撥(ば ち)が当たる。

 だが、どうも三番目の男の子、格三郎と合わない、顔を見ても気鬱になると、 下屋敷に下げた。 腹に溜まるものがあって(こういうのではないと喬太郎、 自分の大きな腹をなでる)家臣同様の扱い、付いて行った中村吉兵衛が夫婦で 内職などして、苦しい暮しを支えている。 格三郎は、町へ出かけて見世物を 見たり、樽を並べた飲屋に入ったりし、本を買ってたくさん読む。 目が疲れ る、肩が凝る。 中村吉兵衛は、いつか日の当る所に出して差し上げたいと、 按摩を呼ぶ。 名を聞けば、錦木、名の割にみすぼらしいな。 生れついての 盲、父親がせめて心には錦をと名付けた、名前負けで。 勘弁してくれ、父の 心も知らず…。

 この錦木、療治は上手いし、話が面白い。 格三郎が寄席場に行ったことが ないと聞けば、噺家という人間の屑(心が痛む、と喬太郎)が、小咄をする、 「向うの空地に囲いが出来たよ」「へぇーー」。 面白い、と、いい客。 だい ぶ楽になった、毎晩来てくれとなって、やがて十年、二十年来の友人のように なる。

 伺ってみたいことがある、と錦木、こちらは酒井様の下屋敷、あなたはお身 内ですか、ご家中ですか。 家臣だ。 ご家中で、お大名になれることはあり ますか。 泰平の世だ、そんなことはない。 じゃあ、偉い学者も嘘をつく、 手前は平の座頭、師匠は勾当、その師の検校の講義を聴く機会があり、骨組の 話を聴いた。 万々に一人、大名や横綱になる骨組の人がいる。 あなた様が、 そのお骨組。 世辞でも嬉しい。 お世辞ではない、確かに万々に一つのお骨 組。 では、儂がもし大名になったら、お前を検校にしてやろう。

喬太郎の「錦木検校」後半2013/07/04 06:32

 錦木、雨に濡れて、高熱を出し、長屋でひと月も寝込む。 隣の源兵衛が、 どうだ具合は、カカアが粥をつくった、卵が入っている、と。 錦木は、もう だめだ、首をくくったら、どんなに楽かと思うけれど、どこが梁か、どこに踏 み台があるか、わからない、死ねねえんだ。 酒井雅楽頭が隠居をして、長男 は病身、女の子は養子を取らず、三男が跡を継いだ、この格三郎が人物でシモ ジモのことがよく分かる、ご名君だそうだ。 源兵衛さん、今の話は本当か。  起き上がって、おれア、検校だよ。

 お殿様にお目にかかりたい。 アポは? 汚くて臭い奴だ、と、さんざん打 ちつけられる。 中村吉兵衛さんは? ご重役だが、お名前を知っているとは、 と話を通す。 構わないから、通せ、となる。 殿様の傍らに、家臣一同が居 並ぶ。 異な香りがするな、按摩は金貸しもすると聞く、烏金(からすがね… 日歩で借りる高利の金銭、翌日元利を返済。夜明けに烏の鳴く頃、返済すべき 金)一分がかりの借金取ではないだろうか。

 面(おもて)を上げい、即答を許す。 大名になったよ、お前は名人だな、 身体だけでなく、私の心もほぐしてくれた。 そればかりではない、父を疎ん じ、憎んでおったかもしれない。 よき友と申すものは有難い、お前はそれも ほぐしてくれたな、お前が大名にしてくれた。 錦木は咳き込み、バチが当た ります、まことにおめでとうございます。 帰るな、錦木、約束したことを憶 えているか、お前を検校にする、と。 皆の者、よく聞け、この錦木は、検校 である。 一分貸して、検校か、私も十両貸せばよかった、と家臣。 お前は、 私の友だ。 錦木、激しく咳き込み、倒れる。 早く、医者を呼べ。 医者が 駆け付け、脈をとる。 事切れております。

 お前は、私を恩知らずにするつもりか。 お前に聞いてほしいことが、たく さんあった。 筆を持って来させ、「検校錦木ここに眠る」と書いた。 酒井雅 楽頭、若き日の逸話でございます。

小満ん「悋気の火の玉」のマクラ2013/07/05 06:39

 煉瓦色で出た小満ん、寄席で10分か15分の噺なので、自分の話をします、 と。 葛飾北斎の辞世の句は<人魂で行く気散じや夏野原>。 <人魂も並ん で飛ぶや憎らしや>、これは心中だろう、ちょいと焼ける。 人魂は、子供時 分に見たことがある。 小学校の校庭で納涼映画の夕べがあり、薄べりを敷き、 校舎に白いキレを下げてスクリーン、風が吹くと映画がゆれる。 三益愛子の お涙頂戴の映画、つまらないので、周りを見回すと、鉤の手になった校舎の屋 根に、人魂が二つ並んでいて、ふーーっと消えた。 ダイダイ色だった。 静 かにおしよ、隣のお袋は映画に夢中、みんなに聞いても、誰も見ていない。 近 所に死んだ人がいない、と信用してくれない。 あいつはいい加減なことを言 うというので、結局、噺家になった。

 <人魂で草履を探す楽屋番>、<人魂の残り飲んでる楽屋番>芝居の焼酎火 は青白いけれど、本当は華やかな色。 <人魂の頓死と見えて矢の如し><人 魂の労咳病みかぶらぶらと><金持の人魂行きつ戻りつす><人魂で来たらお 盆は大騒ぎ>、死んで人魂になるのかとおもうと、気楽なもんだと思う。

 同じお長屋の佐治兵衛さんじゃないですか。 この世に来たのかい、死ねば、 こっちがこの世だ。 ウチの亭主、どうしていますか。 一七日も済まない内 に、どこかの安女郎を引っ張り込んで、ちんちんかもかも。 引っ掻いてやり たい、どうすれば幽霊になれますか? 幽霊の空き株がないか、大王様に願っ てみな。 幽霊になりたい、とんでもない、ならん、ならん。 幽霊は、見目 麗しく柳腰、色白でなければならん。 でかいケツは、あいならん、この不届 き者めが。 化け物株ならば、あるが…。

 臨機応変と申しまして、適度に焼くことが大切なようで…。 旦那が寄席を 出しにして出かけようとする。 噺家が白粉つけて出るんでしょう。 鷺坂伴 内じゃあるまいし、寄席、久しぶりに小満んが出るんだ。 お財布に五十万ば かり入れて、豪気なもんで…。 私も行こうかしら。 ここに仇がいた。 小 満ん、面白くないよ、女には。 やっぱり、寄席じゃないのね。 いいよ、連 れて行こう。 清も一緒に。 貞吉、亀蔵、鶴吉、みんな、おいで、おいで。