小満ん「悋気の火の玉」のマクラ2013/07/05 06:39

 煉瓦色で出た小満ん、寄席で10分か15分の噺なので、自分の話をします、 と。 葛飾北斎の辞世の句は<人魂で行く気散じや夏野原>。 <人魂も並ん で飛ぶや憎らしや>、これは心中だろう、ちょいと焼ける。 人魂は、子供時 分に見たことがある。 小学校の校庭で納涼映画の夕べがあり、薄べりを敷き、 校舎に白いキレを下げてスクリーン、風が吹くと映画がゆれる。 三益愛子の お涙頂戴の映画、つまらないので、周りを見回すと、鉤の手になった校舎の屋 根に、人魂が二つ並んでいて、ふーーっと消えた。 ダイダイ色だった。 静 かにおしよ、隣のお袋は映画に夢中、みんなに聞いても、誰も見ていない。 近 所に死んだ人がいない、と信用してくれない。 あいつはいい加減なことを言 うというので、結局、噺家になった。

 <人魂で草履を探す楽屋番>、<人魂の残り飲んでる楽屋番>芝居の焼酎火 は青白いけれど、本当は華やかな色。 <人魂の頓死と見えて矢の如し><人 魂の労咳病みかぶらぶらと><金持の人魂行きつ戻りつす><人魂で来たらお 盆は大騒ぎ>、死んで人魂になるのかとおもうと、気楽なもんだと思う。

 同じお長屋の佐治兵衛さんじゃないですか。 この世に来たのかい、死ねば、 こっちがこの世だ。 ウチの亭主、どうしていますか。 一七日も済まない内 に、どこかの安女郎を引っ張り込んで、ちんちんかもかも。 引っ掻いてやり たい、どうすれば幽霊になれますか? 幽霊の空き株がないか、大王様に願っ てみな。 幽霊になりたい、とんでもない、ならん、ならん。 幽霊は、見目 麗しく柳腰、色白でなければならん。 でかいケツは、あいならん、この不届 き者めが。 化け物株ならば、あるが…。

 臨機応変と申しまして、適度に焼くことが大切なようで…。 旦那が寄席を 出しにして出かけようとする。 噺家が白粉つけて出るんでしょう。 鷺坂伴 内じゃあるまいし、寄席、久しぶりに小満んが出るんだ。 お財布に五十万ば かり入れて、豪気なもんで…。 私も行こうかしら。 ここに仇がいた。 小 満ん、面白くないよ、女には。 やっぱり、寄席じゃないのね。 いいよ、連 れて行こう。 清も一緒に。 貞吉、亀蔵、鶴吉、みんな、おいで、おいで。