扇遊の「大山詣り」前半2013/07/07 06:52

 「富士詣り」というネタだとよかった、そうはうまくいきません。 世界文 化遺産決定、信仰・芸術の源泉としてということだけれど、今は、レジャー、 チャレンジ。 講中、先達さんに導かれて団体での登山、宿場女郎を買うのが 楽しみという奴もいた。 大山阿夫利神社、勝負事の神様として、博奕打、職 人、鳶の者など、気の荒い連中がお詣りした。

 先達さんが、熊を呼んで、町内の女、子供を守るため、今年は留守番をして くれないかと、説得する。 やだよ、みんなとお山へ行くよ。 お山、遠慮し てくれ、いつもお前さんが行くと、必ず喧嘩になるから。 喧嘩しないよ。 去 年も、そう言っていた。 喧嘩をしたら二分(一分二朱で世帯が持てた)、酒を 飲んで暴れたら坊主にする、という「きめしき」を約束して出かける。 髷(ま げ)は大切なもので、命にかかわるようなことでも、髷を切ることでかなった 時代だ。

 お山は無事終わって、明日は江戸という神奈川で一騒動起こった。 先達さ ん、日記を付けてる場合じゃない、日記もハッカもない。 我慢のならねえこ とがあった、相手は俺と貞の二人だ、湯に入っていたら、熊が俺も入れろと入 ってきた。 歌を歌おうと、下っ腹に力を入れて、一発やっちゃった。 それ が熊の鼻先で、ポンと弾けた。 すると熊が、こんなぬる臭せえ湯には入って いられねえと、貞の頭を桶でポカポカ殴った。 喧嘩したのは悪い、二分出す から、寄ってたかって坊主にするのを許してもらいたい。 まあまあ、酒が覚 めたら、謝らせるから。

 中二階で、熊が酔って寝ている。 カミソリを借りて来て、頭を酒でしめそ う。 うめえな、いい酒でたまんねえや。 何してやんだ、剃るんだ。 寝返 りを打ったから、もう片方もと、ツルツルにした。 裸で寝ているのに蚊帳を かぶせて、ホオズキの化け物のようなのが出来上がった。

 みんなは朝、早立ちし、女中が掃除に来た。 お竹さん、お坊さんが出てき たよ。 肩にウワバミの彫り物がある、昨夜暴れた人だ。 きれいです、さっ ぱりしたでしょう。 お坊さんがいます? あなたが、お坊さん。 髷が自慢 だったのに、喧嘩をしたから仕方がない。 みんなが立って半刻か、江戸まで 通しの駕籠を、三枚で頼んでくれ。 熊は冷酒を三杯ばかしひっかけ、手拭を 米屋かぶりにして、駕籠に乗り込む。 酒手ははずむ、江戸まで通しでやって くれ。 途中、茶屋で休んでいる連中を追い抜いた。