鯉昇「佃祭」のマクラ2013/07/26 05:27

 えェーーッ、と言ったまま、しばらくの間、客席を見回す。 固有名詞が出 なくなって、私の家にはアレがないもんで…。 扇風機と、団扇は五枚ある。  扇風機は古くて、強弱の切替ボタンが甲・乙・丙になっている。 触らないの に、回転が変る日もある。 古い電化製品はモーターが発熱する。 扇風機を 使う時は、女房と交代で、団扇で煽いでいる。

 還暦になりましたが、先輩が二百人もいるという業界で、あと二百回はお通 夜に行かなきゃあならない。 先が長いから、ひたすら無理をしないというの が信条で、大きな声を出さないようにしている。 熱演というのは、したこと がない。 後ろの方の席のお客さんが、耳に手を当てて聞いている、鶴田浩二 の親類かと思う。 聞こえなくても、困るような話はしていない、と言ったら、 金を払っているんだと言われた。 それほど貰っていないと言ったら、それで 納得してくれた。

 医者が自己申告だった時代があった。 今日から医者になる、と言えば医者、 一昨日まで魚屋だったのに。 信仰心で、とげぬき地蔵というのがある。 絵 姿の紙切れというと語弊があるけれど、お札をトゲの上に貼って、包帯を巻い ておく。 でも、トゲを抜いてから、お札を貼った方が、治りが早い。

 歯痛になると、痛い場所を書いた「有(あり)の実」を川に流して、信州戸 隠様に祈る習慣があった。 最近の若い人は、茶柱が縁起のいいのを知らない。  急須でお茶を淹れないから、茶葉の入った袋が破れているのは、不吉なことが 起こる前兆なのか、などと言う。 「有の実」というのは、梨。 「無し」に 通じる、悪い音を忌んで言った。 「よしず」の材料になっている「あし」を 「よし」、「硯箱」を「当り箱」、イカの「するめ」を「当りめ」と言うのと同じ。