『狂気に生き』の佐伯泰英さん2013/08/28 06:12

 昭和61(1986)年4月刊行の、佐伯泰英さんの『狂気に生き』(新潮社)は 二冊本で、第一部が「パスカル・ペレスへの旅」、第二部「疑惑のタイトルマッ チ」となっていたと思うが、今は手元にない。 私はその時、読んだだけで、 内容もすっかり忘れていた。 近年、佐伯泰英という時代小説作家の文庫本の 全面広告が、ときどき新聞に出るようになった。 ボクシングの本を書いた佐 伯泰英さんと、この時代小説作家とは同一人物だろうかと、ずっと疑問に思っ ていた。

だんだんに判ってきた。 佐伯泰英さんは編集者に、もう官能小説か時代小 説に転向するほかないと引導を渡されて、1999年にノンフィクション作家、写 真家から転換したらしい。 それが文庫本書き下ろしの時代小説で「月刊佐伯」 と呼ばれるような、超人気多作のベストセラー作家誕生につながる。 私は読 みたい本が沢山あって、この手の時代小説(山本周五郎、藤沢周平を除く)は、 なるべく手を出さないようにしている。 読んではいないが、NHKがドラマ 化した『居眠り磐音 江戸双紙』や、今年の正月時代劇『御鑓(やり)拝借』 の続編、BSプレミアムで放送中の『酔いどれ小籐次(留書)』などのシリーズ を見て、どういう物語なのかは、わかってきた。

 その佐伯泰英さんが、多作に疲れて移った熱海の仕事場の隣が、岩波書店・ 岩波茂雄の別荘「惜櫟荘(せきれきそう)」で、佐伯さんは縁あって、その「惜 櫟荘」を譲り受け、後世に残すために完全修復を志すことになる。 その一部 始終は、岩波書店の『図書』に連載され、昨年6月に『惜櫟荘だより』(岩波 書店)という単行本になった。 帯に「私の初のエッセイ集は、文庫が建て、 文庫が守った惜櫟荘が主人公の物語です。」とある。 「惜櫟荘」は、昭和16 (1941)年に江戸の粋を知る建築家・吉田五十八と、信州人・岩波茂雄の海へ の憧憬から生まれた近代数寄屋造りの「名建築」だった。 私は小林勇『惜櫟 荘主人―一つの岩波茂雄伝―』や、藤森照信さんの建築探偵本で、「惜櫟荘」の ことは知っていた。 最近、復元過程を記録したテレビのドキュメンタリーも 見た。