喬之進の「お菊の皿」 ― 2013/09/01 06:55
29日は、第542回落語研究会だった。
「お菊の皿」 柳家 喬之進
「花瓶」 三遊亭 萬橘
「蜘蛛駕籠」 柳家 権太楼
仲入
「松山鏡」 林家 正蔵
「庖丁」 春風亭 一朝
喬之進は、昭和53(1978)年、目黒の産、喬太郎の弟子。 夏といえば、 TUBEと稲川淳二を思い出すという世代だ。 稲川淳二は、冬に怪談を仕込む、 体験でなく、聞いた話なのだろう、と「お菊の皿」に入る。 「お菊の皿」は、2007年8月に師匠喬太郎の型破りなのを聴いて、9月9日 に書いている。 喬之進のは、喬太郎ほど崩してなかった。 麹町の青山テッ サンが、女中のお菊に振られた腹いせに、十枚組の葵の皿を一枚抜いておいて、 毎晩、お菊に皿を数えさせて、責める。 庭の井戸に身を投げて死んだお菊が 幽霊になり「うらめしや、テッサン殿」と出るので、テッサンも気を狂わせ、 ノドを突いて死んだ。 敵討ちだ。
今も出て皿の数を数えるらしいが、十枚の終りまで聞いて帰って来た人はい ない。 六枚ぐらいで逃げれば大丈夫と聞いて、三人組が見に行く。 丑三つ 時、夜中の二時頃、煙(遠)寺の鐘がゴーーンと鳴ると、井戸らしきものの四 隅から陰火がポッ、出たーッ、「うらめしや、テッサン殿」。 いい女だ、六枚 まで数えたところで、逃げる。 明日も行こう。
一人増え、二人増え、弁当、酒持ち込みで待つことになる。 お菊も、差し 入れで太ってきて、血色も良くなったが、色気は変わらない。 その内に、興 業師がお上に願い出て、十日間の興行を打つことになる。 不夜城のようにな って、店がずらり、お菊の茶屋はあるは、元祖幽霊まんじゅう、お菊の皿煎餅 は袋に九枚入り、菊ちゃんラーメンはつぶれかかっている。 芝居小屋に受付 があり、予約の本所の辰五郎さんお三人ですね、への九十三番へご案内!
中も明るい、すごい人出で、千人ぐらい入っている。 花環も来ている、「TBS 落語研究会」「一龍斎貞水」。 一杯やろうぜ、最近は芝居がかって、芸が臭く なってきた、でも色気が楽しみ。 鐘がゴーーン、三味線、太鼓に合わせ、(大 声で)「一枚ッ!」、「二枚ッ!」、臭いねぇー、四方に向って見栄を切る。 六 枚だ、逃げるぞ。 前が詰まっているから進めないよ。 押したって駄目だ。 「八枚ッ!」、死んじゃうよ、「十枚ッ!」、「十一枚ッ!」、「十二枚ッ!」、おか しいよ、十五、十六、十七、「十八枚、おしまい」。 お菊ちゃん。 ハイよ。 顔が赤いな、酒飲んでんだろ。 どうして、十八枚も数えるんだ。 わからな いかね、二日分数えて、明日はお休みにするんだよ。
喬之進、なかなかの出来だった。 喬太郎の型破りを真似ないのもよかった。
萬橘の「花瓶」 ― 2013/09/02 06:23
三遊亭萬橘、出るなり「何からしゃべったら、いいのか」と、(緊張か)腰か ら揺れている。 法政大学落研の出で、2003年円橘に入門した円楽一門会。 3 月に前名「きつつき」から、真打昇進して画数を増やした名前になったと言い、 拍手をもらう。 この名前も根付いた感じになってきたが、今日は(落語研究 会)その感じがしない。 先日、ある席亭に、「前の名前は何だっけ?」と言わ れた。 けれど、その後で、「今、何だっけ?」とも。
笑点に出るようなエライ人の前座をやると、絶対受けてやるぞ、と思う。 前 の席におばさんが二人、「あなた早くお弁当食べちゃいなさい、この人が終わる と、始まるから」。 先日、初めてグリーン車のチケットをもらって「感動」し た。 日立まで、六代目円楽と一緒だった、落ち着かない、眠れない、疲れる、 やはり身の丈に合わない感じ。
侍が道具屋へ。 この掛軸は、日本に二つしかないものでして、あと一つは 京都に。 この花瓶は南蛮渡りで、日本に二つしかない、あと一つは京都に。 それはむさいものですから、お手をお触れになりませんように、シビンですか ら手が汚れます。 まだ、水が入っておったな。 明日、国表に帰る、これを 求めたら、土産は安心だ。 旦那様のお目にとまりましたか、日本に二つしか ないもので…。 いかほどか。 五両で。 安いな、求める。 小判で。 法 外な値段で買った侍、右手に鉄扇、左手に溲瓶を下げて、異な形で宿へ帰る。
頼んでおいた花、花鋏、水差しで、花を活ける。 そこへ本屋がやって来て、 『江戸砂子』二冊はあるが、『漢楚軍談』六冊はまとまらないので、まとまった らお国元に送ります、「東錦絵」はお坊ちゃんお嬢ちゃんのお土産にどうぞ。 本 屋さん、よい形だろう。 旦那様は、古流ですか。 失礼ですが、これは溲瓶 ではございませんか。 いかにもシビンだ。 お遊び心で。 面白い形だろう。 ごく古いもので、古道具屋で求めた。 いかほどで。 安かった、五両だった。 国表では、床の間に飾ろうと思う。 旦那様、釈迦に説法ですが、(ここから記 憶が少し怪しい…)これは口偏に虎と書いて、虎が死んだふりをするのを、象 が踏んずけて、小便を虎の鼻にかけると、虎が声を出すという字で、シビン、 小便壺です、瀬戸物屋で二十文から二十五文、それを五両とは、世に聞いたこ ともない話で。 本屋さん、本当か、憎っくき奴、おのれ。 お待ちを、そん な者を斬っては、お腰のものが、汚れます。
真っ赤になって、飛んで来て、道具屋、そこに直れ。 しばらく、しばらく、 私が悪うございました、私には一人の母がございまして、次の間に病で臥せっ ております。 高価な人参を飲ませれば治ると聞かされていましたが、五両の 大金、悪い事とは知りながら、母に飲ませて、喜びの顔を見たら、名乗って出 る所存で。 タワケ! それが孝行になると思うのか、あとの母の面倒は誰が 看るのか、拙者にも一人の母がある、四十を越えたわが身を、さぞやご案じ下 さっていることだろう。 もう少しで斬るところだった、金も命もその方にく れてやるわ。
芳さん、大丈夫か。 親父の溲瓶を五両で売ったんだ。 お袋とか言ってい たが? お袋は三年前に死んだ、みんな口から出まかせだ。 金も命もその方 にくれてやるわって、侍は偉いね、よく金を返せって言わなかったな。 買わ ないで冷やかしをすることを「小便」というだろう、「小便」は出来ないんだ、 溲瓶は向うにあるから。
初め揺れていたので心配したが、萬橘そこそこの出来だった。
権太楼の「蜘蛛駕籠」 ― 2013/09/03 06:16
黒の羅の着物に、白い羽織。 昔々亭桃太郎は、お酒の飲めない人で、昼間 何をしているかというと、喫茶店のハシゴをして、表を通る人をただ見ている。 面白いのだという、面白い人がいる、と。 人間観察、それをやってみた。 雷 門の所に人力車夫が屯している。 浅草演芸ホールへ行ったら、前でお客さん の写真を撮って、案内をしていた。 歌丸、円楽、山田隆夫さんが、出ている。 そんなの、出ない。 ビート・たけしは、若い時出ていた。 今日、出ている のは、ロクでもない人達。
人力車の前は、駕籠だった、と「蜘蛛駕籠」に入る。 駕籠屋が「へい、駕 籠」「へい、駕籠」と呼びかけて、何とか客を引っ張り込もうとしている。 相 棒というと刑事のようだが、兄貴分が雪隠に行っている間に、新米が前の葭簀 張りの茶店のオヤジを駕籠に乗せてしまう。 ナリを見ればわかるだろう、下 駄を履き、紺の前掛をして、箒とチリトリを持っているのに…。 振り分けの 重たそうな荷物を、下げている、あの人はどうだろう。 馬鹿、あれはオワイ 屋だ。 「お駕籠は二丁、供揃いが十人ばかり…」。 大勢だ、すぐ仲間を呼ん で来い。 「通らなかったか、そういう者が通ったら、教えてもらいたい」。
酔っ払いだ、やり過せ。 「へい、駕籠」「へい、駕籠」。 俺を呼んだか、 六郷の渡しの所で、「アラ、熊さん」と声をかけられたのが、辰公のかみさんの おテッちゃんだ、知ってるだろ、神田竪大工町の左官の娘で、三河屋の旦那が 仲人になって、大黒屋で祝言を挙げた、ほら面差しの浅黒い、アゴのところに 小豆粒ほどのホクロのある、おテッちゃんだよ。 辰公のところで、さんざん ゴチになって、すっかりいい気持になっちゃって、お稲荷さんまで竹の経木に 包んでくれた。 ほら、開けてみろ、一、二、三、四、五、六、ハックショー ーン、一つ食えよ。 いいです、きたない、ベチョベチョだ。 包み直せ。
六郷の渡しの所で、「アラ、熊さん」と声をかけられたのが、辰公のかみさん のおテッちゃんだ、知ってるだろ、………。 このリフレインが、可笑しい。 お稲荷さんは、ついに、さっき見ましたになり、もうベタベタだ。 駕籠屋も 憶えてしまうが、聴いているわれわれも、憶えてしまう。 駕籠に乗れ、だと。 物を頼むのに、捩り鉢巻は失礼だろう。 どうも、すみません。 地べたに手 をついて、謝れ。 勘弁してやる。
踊りながらやって来るのがいる。 手拭を吉原被りにして、駕籠の周りを回 りましょ、と踊る。 乗りたいけれど、銭がない、品川まで二分にまけてくれ。 けっこうです、十分で。 かつぐと、やけに重い。 中に二人、その内に二人 で相撲を取ったからたまらない、駕籠の底が抜けた。 急に、楽になったな。 お父っつあん、面白いよ、変な駕籠が通るよ、足が四本じゃなくて、八本出て いる。 あれが本当の蜘蛛駕籠だ。
正蔵の「松山鏡」 ― 2013/09/04 06:31
正蔵、時代で真打試験というものがあり、私で終った、と。 池袋演芸場で、 幹部7~8名だけが聴く、それがまとまっていなくて、バラバラに座っている ので、まことにやりにくい。 別に意味はなくて、仲が悪いだけ。 出囃子な しなのも、やりにくい。 会長の五代目小さんが立って、一言「出て来ーい」。
鏡を知らない、鏡が神秘的な、不思議な物だという時代があった。 娘が水 たまりに映ったおのれの顔にお辞儀をした。 江戸見物に出かけた村人、浅草 へ行き蔵前通りの鏡の店、「かかみせ」で「お園、こっち来(こ)」、あら、あれ、 「カカア見せとるだぜ」。 明くる年、行くと店は引っ越した後で、看板は「こ としゃ、みせん」。 来年じゃないと見られないのか、カカ様あんべえ悪いが…。 大丈夫だ、脇に「しなんじょ」としてある。
松山村の庄助、何歳になる。 四十になります。 親を亡くして十八年間墓 参りを欠かさぬ親孝行と聞き、褒美を遣わす、何なりと申せ。 おら、いらね えです、当り前のことをしたまでで。 上(かみ)が下しおかれる褒美だ、衣 類、田地田畑、金子(きんす)、何がよい? 着物は出かけないし、田地田畑は あるだけで手いっぱい、小作を雇わねばならなくなる、金子は毒、あると働く 気が出ない。 望みを、何なりと申せ。 お上様でも無理。 苦しゅうない、 申してみよ。 死んだ父っつぁまに会いたい。 カカさまには、夢で会います。 名主の庄左衛門、庄助の父はいくつで死んだか、庄助に似ていたか? 五十三、 瓜二つと評判で。
八咫鏡の御写し(各役所にあった)を出してきた。 正助、箱のフタを開けて みろ。 えかく大きな箱で。 父っつぁま、父っつぁま、こんな所にござっし ゃったか、泣いてござる、出てこーーよ、ずいぶん若くなった。 その方に下 げつかわす、けして余人に見せてはならぬぞ。
庄助は、鏡を裏の納屋のツヅラにしまって、朝晩挨拶していた。 女房に内 緒にしていたが、何かあるとツヅラのフタを取った。 こんなところに女子(お なご)を隠しておった、誰だ、タヌキみたいな顔をして、誰だ、誰だ。
正助が帰って来て、夫婦は大喧嘩になる。 大声を出し、こつんとなぐった りしているのを、通りかかった尼さんが聞いた。 お光、逃げろ。 ツヅラの 中に、女子を隠している。 いいや、おらの父っつぁまだ。 どら、おらが見 るべ。 ハハハ、心配ねえ、中の女子、きまり悪いと、もう坊主になったよ。
一朝の「庖丁」前半 ― 2013/09/05 06:05
世の中、男と女しかない。 浮気は、男ばかりじゃなくて、女の方にもある。 先日も、ある女性タレントの一件が…。
久次(きゅうじ)と寅んべが久しぶりに出会う。 寅は尾羽打ち枯らしてい るが、久次は様子がいい。 清元の師匠の所に、ずるずるべったり入り込んで 亭主に納まっているという。 のろけか、素のろけはいけない、おごれよ。 鰻 でも食うか。 寅は、銭がなくて、ろくすっぽ酒も飲めない、と喜ぶ。 静か な部屋、離れ、中串を二人前、刺身を見繕って、酒は五、六本、熱くして。
儲け話があるが、半口乗らねえか、込み入った話もある。 脇に若え、いい 女が出来た、今のカカアが邪魔になった。 御神燈に清元延安喜(のぶあき) とある。 三十二か、中トロだな。 久次のガキの頃からの友達だ、兄貴が帰 るのを待つからと、上りこんで、手土産に持っていった一升の酒を飲め。 ね ずみ入らずの上から二番目の左にある佃煮と、台所のあげ板の三枚目を開けた コウコを肴に。 酔った振りをして、カカアの袂を引き、手を握ったところへ、 久次が登場、出刃包丁を畳に突き立てる。 二年でも三年でも、田舎芸者に売 ッ飛ばして、山分けしよう、と計略を授ける。
計略通り上りこんだ寅んべ、いい女だね、今すぐお茶をというのを、おチャ ケがいい、ちょいとこんなことをやりたいと、湯呑で始める。 いい酒だ、酒 屋の番頭が自慢するだけある。 お肴は? 何もない。 塩っ気? 何もない。 例えば佃煮、ねえんですか、じゃあ出しましょう、面倒くさいから。 いやだ よ、この人、佃煮がねずみ入らずの上から二番目にあるの、どうして知ってい るんだろう。 いい味だよ、これは。 師匠も一杯、いかがですか。 不調法 ですから。 じゃあ、半分いきましょう。 駄目なんですよ、嫌いなんだから。 ちょいと、なめるだけでも…。 嫌いですから、お断りするんですよ!
コウコはないかな。 ありません。 いやだ、台所のあげ板の三枚目から、 出して、洗って、刻んでるよ。 旨い、馬鹿うまだ。 昔から言うじゃありま せんか、糠味噌の味のよいのは、そこの家のおかみさんの……、何てね。
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