市馬の「試し酒」(上)2013/11/11 06:29

 昭和43(1968)年3月に始まり今日第544回になる、この落語研究会は第 五次だが、戦後10年ほど続いた第四次落語研究会があった。 「試し酒」は、 その第四次にいろいろと骨折りをなさった今村信雄先生の作。 先生のお父さ んも、第一次の世話をしてくれたらしい、と市馬は始めた。

 酒乱は迷惑だが、何かというと酒である。 神様に約束、願をかけて酒を断 ったとたんに、仲間が誘いに来る。 どうして昨日の内に来なかったんだ。 何 時まで絶った? 向う一年。 じゃあ、向う二年にして、一日おきに飲めばい いじゃないか。 その手があるのか、向う三年にして、毎日飲むか。

 近江屋さん、ゆっくりしていきなさいよ。 近頃、飲めなくなって…、表に 待たせてあるウチの下男なんぞ、こないだ床上げの祝いに飲んだが、ひと時に 五升は飲む。 会いたいね、そのお供さんに。 田舎の人、けっこうだ。 久 造さん、五升飲めるかい。 どんな五升かね、計って飲んだことがない。 飲 んだら小遣いをくれるのか、ごっそうになるべ。 飲めなかったら、お前さん に小遣いをやるのかね。 唄か踊りを。 人様の前で、臆面もなく、唄なんか 唄えないよ(日頃の市馬をよく知る客席は大笑)。 久造が飲めなかったら、私 がどちらかにお連れして、ご招待しましょう。 旦那さんがごちそうするだか、 いくら位かかる? 心配するな。 では、ちょっくら考えさせてもらいたい、 と久造は外へ出る。 主人思いのいい人じゃないか、でもこの勝負は私の勝だ な。

 大きなやかん、桐の箱に入った大盃を用意する。 飲めたら、お前さんを箱 根に招待しましょう。 今、これだけの盃はない、塗りといい、蒔絵といい。  「太郎盃」、「次郎盃」、「浮瀬(うかむせ)」(江戸時代大坂を代表する料亭「浮 瀬」所有のアワビの大盃、盃の名が店名になった)、「べく(可)盃」と言って 底に穴が開いていて、下に置けないのやら、いろいろあるが…。 これは「武 蔵野」と銘があり、広くて、野が見尽せない、飲み尽くせない。

 考えやした、飲ましてもらうべえ。 大きなものでやらしてもらうべえ、タ ライか何かで。 一升入る、これで五杯飲んでもらう。 飲めそうだ、上げ底 になっとる。 お酌して下さるんで…。 ゆっくりと、飲む。 息もつかない で、一杯飲んでしまう。 大丈夫かい。 夢中で飲んで、味がわからなかった。  今度は、味わって飲むべえ。