落語の「富士詣り(=五合目)」 ― 2013/11/18 06:24
落語に「富士詣り」というのがあるが、あまり演じられない。 よく演じら れるのは、「大山詣り」というネタだ。 富士山までは遠く、東海道には箱根の 関所もあり、大山阿夫利神社の参拝のほうが手軽だったのだろう。 大山は、 勝負事の神様として、博奕打、職人、鳶の者など、気の荒い連中がお詣りした というから、どちらかというと江戸っ子らしいかもしれない。 「大山詣り」 は、ご存知の暴れん坊の熊さんがお山の後の神奈川の宿で、酔っ払って暴れて、 坊主頭にされてしまい、先回りして江戸に帰って、みんなは海路遭難して死ん だと偽って、一行のかみさん達全部を尼さんにしてしまう噺だ。 あまり演ん じられない「富士詣り」とは、どんな噺か。 今村信雄さんの『落語事典』(青 蛙房)、矢野誠一さんの『新版 落語手帖』(講談社)から紹介しておく。
江戸っ子が講中を組み、先達に導かれて団体での富士詣り(登山)だ。 初 山の者も多いので、先達は世話がやける。 互いに掛念仏や「六根清浄」の掛 け声威勢よく、はしゃいで登ったので、すぐにくたびれ、行留と称して休むこ とにすると、雲がおりて暗くなってくる。 先達が「この中に何か罪を犯した 人がいると、無事にお山ができない。五戒を破った者がいるなら懺悔するよう に」と言い渡した。 それをしないと罰があたって、どんなことになるかわか らない、と言われ、皆青くなって告白を始めた。 湯屋で他人の下駄をはいて きたり、寿司屋で勘定をごまかした偸盗戒の懺悔のうちはよかったが、のろけ まじりに他人の内儀さんと通じた邪淫戒の懺悔を始めた奴がいる。 いったい そのお内儀さんは、どこのお内儀さんだ? いや、面目ねえ、先達っつぁん、 おまえの内儀さんだ。 てえげえにしやがれ……おや、留さん、おい、留さん。 へい。 へいじゃないよ、どうしたい? 頭が痛くて心持が悪い。 頭が痛く て心持が悪い? 初山だからお山に酔ったんだろう。 先達さん、酔うわけで すよ、ちょうどここは五合目です。
とすると、私が五合目の「奥庭」でヘロヘロなったのは、お山に酔ったのか もしれない。 当然ながら、邪淫戒とは無縁だけれど…。
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