『思い出のマーニー』の杏奈2014/08/17 06:45

 『思い出のマーニー』の杏奈は12歳、自分を見失い、心を閉ざしている。  映画は公園で幼稚園児たちが大勢、遊んでいる場面から始まる。 学校の図画 の時間で、そこへ写生に行っている杏奈は、同級生と交らず、一人端っこで描 いている。 自分は外側の人間で、内側には入れないと感じている。 話しか けられたり、話したりするのが苦手のようだ。 つい思いもかけない言葉を、 発してしまったりする。 そんな自分を、ひどく嫌っている。

 教師が近づいて来て、絵を見せるように言われ、ギョッとしたところに、事 件が起こる。 園児の一人が、遊具から転落する。 パニックになった杏奈は、 喘息の発作を起こす。 杏奈のカバンなどを家に届けに来てくれた同級生3人 に、心配な頼子は、学校での杏奈がみんなとうまく付き合っているのかと、尋 ねる。 口ごもるような返事。

 医者に療養をすすめられ、杏奈は海辺の村の頼子の親戚、大岩夫妻の家に行 くことになる。 映画では、この大岩夫妻が素晴らしい。 ふとった妻のセツ は見るからに包容力があり、夫の清正は黙って木彫などしている。 事情は聞 いているであろうが、とやかく言わず、杏奈をそのまんまに受け入れて、自由 にさせる。 杏奈が頼子のことを「おばちゃん」と呼んでも、軽く受け流す。

 杏奈は海岸へ出かけ、自由に、ひとりの世界に浸る。 だれも、話しかける 人はいないし、こうしたらいいなどと指示する人はいない。 潮の干満のある 入江の「しめっ地」で、海と空の広大な景色、海風にそよぐ葦や、海鳥の鳴き 声に包まれて、自然の中に溶け込むような時間を過ごす。 からっぽの自分と、 からっぽの自然が一致する。

 つまずいて土手の階段を転げ落ちた杏奈の目に、「しめっ地」に立っている洋 館が飛び込んで来る。 ずっと探していたもの、それが、見つかったのだ。 既 視感のあるものだった。  その「しめっ地やしき」の窓に時々、マーニーという金髪の少女が姿を現すのを、杏奈は見つけることになる。