『金幣猿島郡』市川猿之助の奮闘2014/10/19 06:44

 そして、『金幣猿島郡(きんのざいさるしまだいり)』三幕「大喜利所作事 双 面(ふたおもて)道成寺」である。 四世鶴屋南北作、武智鉄二補綴、石川耕 士補綴・演出、市川猿翁演出。 源氏の頼光と敵方平将門の妹・七綾姫が恋仲 だという話に、安珍・清姫の道成寺が重なるのだから、なかなか複雑で、よく わからないが、以下のような話らしい。 猿之助の演ずるのは、(1)如月尼娘 清姫、(2)右衛門尉藤原忠文、(3)白拍子花子実は清姫の霊、(4)狂言師升六 実は忠文の霊。

 母如月尼(中村歌六)の庵に住む清姫(1)は、かつて会った都人に恋い焦 がれるあまり盲目となっている。 そこへ北白川の安珍と名乗る男、実は文殊 丸頼光(市川門之助)が、名刀村雨丸を探しにやって来る。 源氏方の頼光は 敵方平将門の妹・七綾姫(中村米吉)と恋仲なのだが、七綾姫は源氏方に追わ れる身で、如月尼の庵に匿われていた。 如月尼実は乳人御厨たちは、平家方 の人間だった。

 七綾姫が源氏方に見つかって、如月尼は七綾姫の首を差し出すように命じら れる。 そんな中で、頼光と七綾姫は再会する。 如月尼は悩んだ末に、自分 の娘の首を差し出そうと決心する。 七綾姫が持っていた懐剣が実は村雨丸で、 それを抜いた途端、雷鳴が轟き、清姫の眼が見えるようになった。 清姫が見 たのは、これまで恋い焦がれてきた男の姿と、彼と恋仲にある七綾姫だった。  清姫は、七綾姫の身代わりになって死ぬのはいやだ、と言い出す。 しかし、 そんなことは叶わず、七綾姫のためと、命を奪われ、二人に嫉妬したまま死ん だ清姫は、蛇となり、鐘に尾を巻きつけて執念を燃やす。

 一方、七綾姫に恋い焦がれる右衛門尉藤原忠文(2)は、将門追討の命を受 けていたにもかかわらず、七綾姫の「兄を見逃してくれたら色よい返事をしま す」という文に惑わされ、将門を見逃していた。 しかし頼光を恋する七綾姫 には、そんな気持は毛頭ない。 その二人の姿を見た忠文も、嫉妬に狂って、 鬼と化していく。 

 清姫と忠文は振られた者同士、恋の怨みに狂って、宙を舞い、合体して、祟 ることになる。 「宙乗り」の見せ場、天井から金色のものがキラキラと降っ てきた。

桜咲く明るい「大喜利所作事 双面(ふたおもて)道成寺」、猿之助は白拍子 花子実は清姫の霊(3)、狂言師升六実は忠文の霊(4)となって、白拍子花子 の華麗な踊り、狂言師升六の面を何度も取り替えて三様の踊り分けを見せる。  舞台回しに、能力白雲(中村隼人)と能力黒雲(市川弘太郎)が出る。 道成 寺の僧のようだが、頭巾をかぶっている。 「能力」を知らなかったが、「のう りき」と読み、『広辞苑』には「寺で力仕事をする者。寺男。謡曲、道成寺「い かに―、はや鐘をば鐘楼へ上げてあるか」」とあった。 頭巾は「能力頭巾」と いい、頭頂を引きつめた頭巾で、「能では能力役が、狂言では旅僧や新発意(し んぼち)役がかぶる。ごうし頭巾。」とある。 ついでに、新発意とは、「しん ぼっち(シンホツイの連声)、発心(ほっしん)して新たに仏門に入った者。出 家して間のない者。今道心。初発心。小僧。しんぼち。しぼち。」だそうだ。 事 程左様に、歌舞伎は勉強になる。