柳亭小痴楽の「磯の鮑」2014/11/01 06:36

10月28日は第556回の落語研究会、会場に入ると「前座は金原亭駒松が代 演致します」というビラが下がっていた。 だが、幕が開いたら、ちゃんと柳 亭小痴楽が出て来た。 断わりのアナウンスもなかった。 仲入になっても、 ビラはそのままだったので、入口にいた係に話したけれど、知らなかった。

「磯の鮑」          柳亭小痴楽

「目黒の秋刀魚」  才紫改メ 桂 やまと

「愛宕山」          柳家 さん喬

         仲入

「悋気の独楽」        立川 生志

「木乃伊取り」        五街道 雲助

 「小さな痴漢を楽しむ」と書くと出て来た小痴楽、お洒落なクシャクシャ頭 で、大声を出し、元気がいい。 係から落語研究会に出演をと電話があったが、 落語研究会を知らず、オチケン、どこの大学のと聞いてしまった。 TBSの、 というから、TBSにもオチケンがあるんですか、と言ったというが、本当かね。  去年の暮に25歳の誕生日を迎えたが、其の伝で、世間の暗黙のルールが分ら ない。

 師匠が、暗黙のルールを覚えなければいけないと、誕生祝いにスナックとい う所に連れて行ってくれた。 入場料が一時間五千円で、女の子がいる。 メ ロンちゃんという名の、色の浅黒い子が、隣に来た。 「あいよ、あいよ、わ かってるよ」と、変な日本語を使う。 フィリピンだった。 胸元の大きく開 いたドレス、スカートがごく短くて、メロンちゃんのパンツ、メロンパンが目 に飛び込んで来る。 師匠は両手に花、中国人と、フィリピン人。 メロンパ ンが気になって仕方がないので、膝にハンケチでものせてくれないか、と言う と、師匠が「それも含めて一時間五千円なんだ!」と叫んだ(小痴楽、ここで 噛んで、「大事な所で噛む」と)。

 源公、吉原(なか)行ってないだろ。 フトコロになくて、吉原に行けない。  吉原は儲かるから、それで暮しを立てているんだ。 源兵衛と太助がそんな話 をしているのを聞いた与太郎、吉原に行くとスッカラカンになると言われてい たから行かなかったのに、儲かるのか、と乗り気になる。 儲かる方法がある、 隣町の梅村という隠居が「女郎買いの師匠」だから手紙を書いてやる。

 「女郎買いの師匠はいますか?」 何だ、源兵衛と太助から手紙だと。 よ ろしくおからかいの程、お願い致します。 お前さん、だまされている、かつ がれているんだ、いいから帰りな。 かつがれてじゃなくて、歩いて来た。 (黒 の羽織を脱ぐと、裏は派手な朱。鼠色の着物、袖から黄色が見える)

 じゃあ教えてやろう、大門の明かりがポッと点いた頃に、大門を入るんだ。  ギュウというのが、「いかがですか」と聞くから、「いかが様は百万石」とでも 言えば、「遊び慣れていらっしゃる、お登楼(あが)り下さい」。 「登楼ると、 四方が見えるかい?」、「よく見えます」、「お富士さんみたいなものかい」と言 うと、一目も二目も置かれる。 梯子段をターーッと登るんだ、途中で止まら ないという縁起だ。 おばさんが出て来る。 遣り手婆アだ、女の妓の世話を してくれる。 相手の女をいい心持にさせるんだ。 三年前から岡惚れでね、 登楼ってよかった、磯の鮑の片想いだった、と言って、肩をポンと叩く。 ず いぶん可愛がってもらえる。 それが吉原で儲かる法だ。 早速、行ってまい ります。

 与太郎、大門の前でずっと待っていて、灯りが点いた途端に、飛び込んだ。  女郎買いの決死隊。 隣町の隠居に教わったことを、一気に全部、自分でしゃ べって、やって(これが可笑しかった)、トントントンと登楼った。 誰もいな いな、おばさんいませんか、遣り手婆ア。 はいはい、面と向かって言われた のは初めて…、どの妓がいいですか。 上から三枚目の妓。 あなた、見てな いでしょう。 見ていなくても、上から三枚目。 手古鶴さん! 手古鶴さん!  早く、早く、目が血走っているから。

 パフッ、パフッ、パフッ。 何です? 煙草、失礼しました。 ねぇー、花魁、 ずっーーと待っていたんだよ。 どこのどなたか知らないけれど…(どこかで 聞いたことがある)。 三年前からずっと外で立っていた。 貴女に岡で惚れて いた。 二十年前は若かった、三つだった。 伊豆のワサビの片想いでねえ。  花魁の肩を、(思いっ切り)ボンと叩く。 痛い、痛い! 涙が出たよ、ここに ほら。 伊豆のワサビが効いたんだ。

 小痴楽、羽織を拾って、元気よく帰って行ったが、傑作な高座だった。 前 座を長々と書いたのは、そのためである。 有望な25歳だ。 代演などして もらわなくて、本当によかった。