才紫改メ桂やまと「目黒の秋刀魚」2014/11/02 06:59

 桂才紫改メ桂やまと、丸顔で大きく手を回してお辞儀、落語研究会は下座の 笛のレギュラーで、毎月来ていたと言う。 20分後に、傷ついた二ツ目を介抱 する役目だったというが、小痴楽は必要なかったろう。 「片仮名のトの字に 一の引きようで」の小咄をやり、羽織を脱いで、殿様の教育指導係はどの噺も 三太夫だ、と。 下肥と水肥、苦しゅうないかけてまいれ、をやって、鯛の尾 頭付、殿様に朝昼晩出すが、出すまでに毒見など時間がかかるのでコチコチ、 殿様は箸をつけない。 同じものを出していたら、たまたま殿様が箸をつけた。  一箸つけると、「代りを持て」となる。 三太夫は「築山の上に見事な月が…」 と言って、殿様がそれを見ている内に、ひっくり返した。 また一箸。 「代 りを持て」。 三太夫が困っていると、殿様「もう一度、月を見ようか」。

 馬術鍛錬で、下屋敷のある目黒まで行こう、余を抜いた者に褒美を取らせる。  毎度、誰も抜く者はいないが、たまたま抜いたのがいて、えらい目に遭った。  馬の鞭を持って、そちの名は? 宮沢。 鞭と蝋燭で、こういうのを好むので あろう。

 弁当を持て。 三太夫は、恐れながら、火急の出立で弁当を忘れた、と。 ロ ーソンはないか、下町の○○○でもいいぞ。 よく、ご存知で。 何もないか、 殿様、腹が減り、すっかりしょげて、切り株に腰を下ろしていると、どこから ともなく、いい香りが。 秋刀魚、下種下民の食す下種魚で、とても殿のお口 には。 いつ戦になるかわからぬ、秋刀魚とやら、目通り許す。

 農家が庭先で大根と交換した秋刀魚を、七輪で隠亡焼(おんぼうやき)にし ている。 秋刀魚に塩をまぶして、熾きた炭の中に、突っ込む。 奥さん、こ こです、まわりはこんがり焼けて、中はジュワーッとなる。 ご太守が、ご所 望である。 これで、と小判。 秋刀魚十本に、大根下ろし、濃い醤油をかけ ると、プチプチプチと音を立てる。 この真っ黒いのは、忍者か。 秋刀魚で す。 これがまずい訳はない、美味いのなんの。 美味であるなあ。 殿様、 あっという間に十本たいらげた。 三太夫は、くれぐれもご重役方にはご内聞 に。 目黒最高!(と、殿様が万歳する)

 秋刀魚、秋刀魚、秋刀魚に会いたいが、なかなか会えない。 園遊会があり、 注文されたものを出すという。 赤井御門守様、秋刀魚をご所望。 秋刀魚で?  長やかで、黒やかで、美味なる魚だ。 早馬で、房州の本場ものを取り寄せた。  骨を抜き、蒸して、脂を抜き、団子にして、お椀に入れて出した。 殿様、楽 しみにしていたが、違うものが出て来た。 かすかに香りはする。 哀れな姿 になったな。 美味い訳がない。 料理番を呼べ。 神田川俊次郎、えらいこ とだ、切腹か。 この秋刀魚、どこで仕入れた? 房州で。 それがいかん、 秋刀魚は目黒に限るぞ。

 桂やまと、「目黒の秋刀魚」を定石どおりになぞった。 殿様をたまたま抜い た者がいて、宮沢とやったのが、品がなく嫌味で、聴いていて、それをずっと 引きずってしまった。 勉強が要りそうだ。