さん喬の「愛宕山」前半2014/11/03 06:48

 天高く馬肥ゆる秋、お芝居のホリゾントの幕を見るような空、春と秋とどち らがいいか、秋には寂しさがある、釣忍の風鈴がコツンコツン、秋が好き、気 持が爽やかになる秋だ。 旅行の季節、外国旅行の方が安かったりする。 ツ アー旅行、観光、光を観ると書く、その時間を楽しむ、空気を感じる。 添乗 員は2時50分に集合です、などと、せわしない。 それで土産物屋には、2 時間取ったりする。 (客席で、ハックション!)、お風邪にはお気をつけ下さ い。

 上方へ旅するのが楽しみだった。 江戸の大金持、(三味線が鳴り)一八、明 日は愛宕山(あたごさん)に登るぞ、そんなに飲むな。 舞妓、可愛いな。 お しょはん、いけず。 小鈴ちゃん、可愛いね。 あきまへんえ。 繁蔵、盃を 取り上げろ。 一八を連れてけ、酔っ払っちまいやがった。

 今日は、愛宕山に登るぞ。 一八は、宮川町のあたりの方がいい、愛宕山に 登るなんざぁ朝飯前だと言って、旦那に叱られる。 繁蔵、一八を逃がすな。  酔っ払いが喧嘩をしていた。 一八は喧嘩で一句と、<早蕨(さわらび)の握 りこぶしを振り上げて山の頬面(ほおづら)春風ぞ吹く>と。 旦那が、さわ らび」って、何だ? さわらび神にたたりなし。 わからないんだな、盗句だ ろ。 早蕨は、芽を出したばかりのワラビだ、握りこぶしの形に見える。

 (片袖脱ぎになり)♪チンチン、お前を、待ち待ちッ、蚊帳の外とくら、蚊 にくわれッ、ああこりゃこりゃ。 (扇子を広げ)♪七つの鐘を聞くまでは、 こちゃえ、こちゃえ、かまやせぬ、私ァ、淀のお地蔵さん、ヘェ、ヘェ、ヘェ、 風に吹かれて、真っ黒けのけ…ハッ、ハッ、ハッ。 (扇子を背中に挟み) 汗を拭き、羽織を脱いで、繁蔵に預ける。 ハァー、ハァー、ハァー、帰るよ。  駄目だよ、腰を押してやるよ。 右から、ヨッコイショ、ヨイコラショ、チン チンチロリ、チントンシャン。 痛え! ケツのオデキ、さわるな。 一八、弟 弟子と喧嘩するな。

 ここは試みの坂、あそこが頂上だ。 いい風だなあ。 来てよかった。 あ そこが、清水さん、鴨川、桂川、きれいだなあ。 旦那、大将、あの輪っかは、 何ですか? 土器(かわらけ)投げだ。 おばあさん、十枚ばかり。 やって みるか、(ペッ、と端を噛み切って)一、二、三、ほら! ソラッ、抜けた。 二 枚で、お染久松、野崎の別れ。 一八、出来るか。 ア…、夕飯前だ。 届か ない。 口を欠かないからだ。 難しいもんですねえ、大将。 名人、煎餅で 抜くというな。

 京都に来たんだ、これを通そう。 小判じゃないですか、そんな無駄なこと を、何枚? 三十枚、三十両。 そら、一、二、三! そら。