さん喬の「愛宕山」後半2014/11/04 06:34

 ハハハハハ、一八、一枚も通らなかったな。 三十両、みんな投げちゃった んですか。 どうすんです、あれ、下でキラキラ光ってる。 拾ったら、拾っ た奴のもんだ。 仮に、あっしが拾ったら? やるよ、お前に。 この谷は、 深さ、どのくらいです? おばあさん。 八十尋(ひろ)。 (手をひろげて) 八十か。 下りる道はない。 歩けば六里、日が暮れて、狼も出る。 ほかに、 どっかないの? ない。

 おばあさん、傘貸してよ。 下りんの、それで。 やれ。 やります。 一 八、早くやれ。 タッタッタ、と走り、止まる。 目をつぶれば、いいんだ。  タッタッタ、目が開いちゃうね。 繁蔵、思い切りのいいように、背中突いて やれ。 生きてたって、世の中の役にも立たねえ。

 やっちゃった、大将。 下りて行くよ。 下りたよ。 着いた、動いたよ。  呼んでやれ。 一八ーーッ、大丈夫かーーッ! 兄(あに)さーーん! 一八 さーーん! おっしょさーーん、大丈夫だっかーーッ!

 ヘェーーッ、大丈夫でーーす。 金はあるかァー? (一八、張り付いた傘 の柄から手を剥がし)笑いながら、金を拾う。 アハハ、江戸で銀行始めるよ。  一八銀行、なんて。 あと二枚だ。 三十枚、みんなありました。 みんな、 お前にやるぞーーッ! どうやって、上ってくるーーッ! ざまあみろ、欲張 りーーッ! 俺たちは、先にかえるぞーーッ! 狼に食われて、死んじゃえー ーッ!

 着物脱いでいるよ、おかしくなったのかな。 絹物を着ている、みんな絹物、 芸人だから…、それを割いて、縄をなう。 大変なところで、内職が始まった な。 一本の縄ができ、その先に小さな石を結び、孟宗竹に向かって投げた。  くるくると巻き付いたのを、よいしょ、よいしょと、引っ張って、満月のよう にしならせた。 狼、冗談じゃねえ。 エイッ、ヤッ!

 只今、帰りました。 一八、大した奴だな、お前を生涯贔屓にするぞ。 金 はどうした? 忘れてきました。